竹谷さんだから聞けるパン職人の理想と挑戦-vol.8 焼きたてパンのカフェはいつも行列 地元農家と連携し、目指すは本物の地域密着 ブレドール 橋本 宗茂さん

前編 後編

ゴルフ場と提携した「パンの進物」が好評を博す

竹谷
 ゴルフ場のお土産にパンを提案したのも橋本さんが初めてでしょう。
橋本
 私は昔からゴルフをやりますが、家族に後ろめたくて、「おみやげ買って帰ろうかな」と思う。そこで葉山カントリークラブに交渉して、「パンの進物」を始めました。食パンと「ぶどうパン」を出しましたが、食パンというのは安い。1本600円。600円で買えるお土産なんてあまりない。600円で喜んでもらえるなら、こんないいことはない。100本とか150本とか注文が入りました。しかし、土日が忙しくなり、配達の時間に製造が間に合わなくて、断ってしまいました。葉山カントリーのマネージャーが、ゴルフ関係者の全国ミーティングで、『お土産でパンが売れる』と発言した。そこからパンをお土産にするゴルフ場が全国に出てきたようです。

週末は大行列ができるカフェ


竹谷
 モーニングが大変人気で行列ができているということですが。
橋本
 せっかくリテイルベーカリーで窯がすぐそばにあって、そこから焼きたてのパンが出ますので、「焼きたてのパンってこれだけ違うんだ」というのを味わってもらいたいと思って、モーニングを始めました。おかげさまで、1日60人、多いときは100人ぐらいお客さんが来ます。
 食べ放題が「売り」ではなく、焼きたてのパンを満足いくまで食べてもらうことが、結果として食べ放題になっているだけ。お客さんによって食べる量はちがいますからね。それが、テレビに「食べ放題」と出てしまった。本当の狙いは、焼きたてのパンを食べてもらいたいということです。ティールームのスタッフが、スープとサラダメニューは日替わりで考えています。同じメニューは出さない。なるべく旬のものを出す。昨日は息子がスズキを釣ってきたので、おろしてサラダにしたり。
 野菜は地のもの「鎌倉野菜」を週に3回お農家さんが入れてくれる。カフェで使うだけでなく、販売もしています。売る場所を提供するだけで、お金はいただいたりしない。ただ「新鮮な野菜を使って」と、野菜をもらっています。
竹谷
 カフェでおいしいサラダを食べて、同じ野菜がここで売っているとしたら買って帰るでしょうね。

地元の生産者と連携して売り場を活性化

橋本
 鎌倉野菜は東京のレストランの料理人が、わざわざ朝一番の電車で買っていくぐらい有名です。そこで、桜木町の店でも鎌倉野菜のサラダとサンドイッチを始め、野菜も売るようにしました。珍しい京野菜とか、イタリアやフランスの種を使ったナスやレタス。そういうものをサラダにしたり、サンドイッチにしています。桜木町の店は一時売り上げが減っていましたが、おかげさまでお客さんがまたついてくれるようになった。
主婦やサラリーマンの方が、意外と高い生鮮野菜を買ってくれて、ついでにパンも買ってくれたり、カフェに入ってくれたりする。

地の食材を使うことが地域密着の店づくりにつながる

橋本
 牛乳は横須賀にある関口牧場さんのものを、卵は横須賀産とか葉山産の地卵を使っています。卵を割ってみると、黄身の色から弾力からぜんぜん違う。産まれて翌日に出荷しているような卵ですからね。普通の卵より3割ぐらいは高いですが、これを使うことに価値があると思って、ずっと使っています。今、地産地消が叫ばれていますので、パン屋も地域密着が大事だと思うので。
 うれしいのは、『お宅にくると元気をもらうんだよね』って言ってくれるお客さんがいること。本当は私のほうが元気をもらっている。そういう付き合い方が本来の地域密着ということだと思います。
橋本宗茂氏プロフィール

【橋本宗茂氏プロフィール】
昭和25年(1950)生まれ。大学在学中はホテルでアルバイト。サービスの経験を活かし、葉山ボンジュールに入社。28歳のとき、それまで務めていた販売・レストランのサービスから工場の現場主任に異動、パン作りに携わる。平成7年(1995)独立し、葉山にブレドールを開店。地元で評判の人気店となり、特に併設したカフェで供するモーニングには長蛇の列ができる。その後、横浜市金沢(現在閉店)、桜木町駅前コレット・マーレ、逗子にも支店を置く。

対談場所:ブレドール 神奈川県三浦郡葉山町一色657-1 tel:0468-75-4548

定休日/火曜日 営業時間/[平日]7:30~19:00 [日曜・祝日]7:00~19:00 (モーニングは11:00まで)

御用邸があり、別荘地・邸宅地として知られる、湘南・葉山。美しい海岸やヨットハーバーを控えるこの地に、ブレドールはある。 オーダーメイドの家具を使用したゴージャスな店内には、亡き夫人の愛した藤田嗣治の絵画コレクション、数十万円から高いものでは百万はするというマイセンの陶器、バカラのグラスも飾られる。また、有田焼による常連客のマイカップもインテリアのひとつとなっている。 フランスパンや食パンはじめ、自家製酵母パン、デニッシュや菓子パン類、ピッツアなどの惣菜パンなど、商品構成は幅広い。 クリスマス前のシュトーレンや特製のラスクなど、進物や季節商品も好評を博している。 素材には特にこだわる。北海道産春よ恋100%のフランスパン、フォンダンに和三盆を使ったミルクロールや、エシレバターを使用したエシレ食パン。クロワッサンはAOPバター使用のもの、エシレバター・自家製酵母使用のものを作り分けるなど、おいしさのためなら手間も原料費も惜しまない。 焼きたてのパンを満足いくまでおかわりのできるモーニング(90分間限定)が評判を呼び、特に週末は大行列となっている。地元産の魚や野菜を使った、スープやサラダがついて1200円とお値打ち。
逗子駅前と横浜桜木町にも店舗があり、ともにカフェを併設。百貨店の催事などにも積極的に参加している。

前編 後編

対談を終えて

橋本さん 竹谷さんと知り合ってから、かれこれ約30年になります。
日清製粉さんのパン講座の二期生か三期生だったと思いますが、竹谷さんは他の班でしたが講師として指導にあたっておられました。
その後ボンジュールに居た頃、ベーカリーフォーラムに参加させて頂き、多くの方々と知り合う事ができ、それが私の一番の大切な財産となっています。
いつの間にか私も還暦をとうに過ぎ、仲間の面々もそれなりの年齢となってきましたが、パン業界は相も変わらず、3K、4K。1日に16時間も働かなければいけないような状況のお店がまだまだあります。何とかもっと良い労働条件で楽しく将来のパン屋を夢見られる様な環境づくりにして行きたいと思っています。それにはまず多数のお客様に喜んでもらえるパンづくりが大切だと思います。どうやってお客様に満足してもらえるパン屋になれるかを従業員と考えて行こうと思っています。竹谷さんの豊富な経験と知識を頼りにしております。

竹谷さん 半年ぶりにブレドールを訪問しました。逗子のお店で待ち合わせ。13時とは言え、相変わらずの繁盛ぶり、総ガラス張りの明るい店内、スタッフもきびきびと対応しています。その後、葉山本店へ、こちらはマイセンのお皿、カップ、バカラのグラス、そして無造作に飾ってある、藤田嗣治の沢山の絵、これらに囲まれて美味しい焼き立てのパンが食べられるのですから。モーニングの人気の高いのも頷けます。
本人は大学を卒業して友人である葉山ボンジュールのオーナー・猪狩氏を手伝ううちに、レストランから店舗運営、ベーカリーと移り、いつの間にかパン屋になっていたと言いますが、舌と目の確かさ、製パン原料にエシレバター、和三盆、鎌倉野菜を使うという素材へのこだわり、古くから自家製酵母でのパン作りなど、確かな製パン技術と理論、そして葉山という地域性を十分に考慮した店舗運営は見事というほかは有りません。
現在はご子息の橋本茂樹氏が主体的に製造、新製品開発、厨房運営などに取り組んで、ご本人は好きなゴルフを満喫できる環境にあるようですが、なかなか、任せられないのもパンに拘りを持つ職人ならではの気持ちでしょうか。

※店舗情報及び商品価格は掲載時点(2013年2月)のものです

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