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vol.34 クラフトミルクの達人に聞く、
パンと牛乳のマリアージュ

紹介してくれた人

武蔵野デーリー
のぞみさん

のぞみさん(左)と代表の木村義之さん

吉祥寺で100年続いた牛乳店店主で義父の木村義之さんとともに「武蔵野デーリー CRAFT MILK STAND(クラフトミルクスタンド)」を運営。全国30カ所以上の牧場をめぐり、牧場主やそこで働く人たちの想いに触れ、多彩で豊かな個性がきらめいている牧場と牛乳の魅力を、ミルクスタンドやSNSを通して多くの人たちに伝えている。牛乳を使ったドリンクなどの商品開発も担当。

RECOMMENDED COMBINATION おすすめの組み合わせ

風味豊かなジャージー種のノン・ホモジナイズド牛乳と
シンプルなカンパーニュ

ノン・ホモジナイズド牛乳+カンパーニュ

当店は、放牧を中心に、いろいろなこだわりを持って牛たちを育て、搾乳から殺菌、パッキングまでを自前で行っている全国30カ所以上の牧場から、月替わりで3種類のクラフトミルクを販売しています。

クラフトミルクって何?と思われるかもしれませんね。牛乳は、牛の種類だけではなく、どんな環境で育ち、どんな餌を食べているかで味わいは驚くほどに違いが生まれます。「クラフトミルク」と私たちが呼んでいるのは、ほかの牧場の牛乳とは混ぜない、単一の牧場の牛乳のことです。
酪農家の皆さんは、よりおいしく風味豊かな牛乳をめざして、牧場ごとに独自の工夫や特色のある方法で環境を整え、大切に牛を育てて、搾乳した生乳の殺菌などにもこだわりを持っています。
そうして私たちの手元に届く牛乳は、コーヒーやビールと同様、自然が生む産物であるとともに、たくさんの人の手がかかり、丁寧につくりあげられた「クラフト」だと捉えています。

4月のラインアップから。「玉名牧場 ジャージーミルク」(左)と「デンマーク牧場 ノンホモ低温殺菌牛乳」
店先のベンチで気軽にパンと牛乳のマリアージュを楽しめる

さて、そうしたこだわり牧場からの牛乳とパン、どれを選んでも相性がよいことは間違いないのですが、私からのおすすめの組み合わせは「ジャージー種のノン・ホモジナイズド牛乳」と「カンパーニュ」です。

乳牛にもいろいろな種類がありますが、日本で主に育てられているのはホルスタイン種とジャージー種です。ホルスタインは白黒の牛柄の、牛乳といえば真っ先に思い浮かべる牛で、ジャージーは茶色い牛です。
ホルスタイン種の牛乳は、クセは少なく甘みがあって飲みやすいのが特長で、ジャージー種の牛乳は、より風味豊かでコクがあります。人によってはクセを感じるかもしれませんが、放牧で草をメインに食べている牛の乳は、あっさりとしてあと味もさわやかです。
カンパーニュのようにシンプルなパンと一緒にいただくと、ほどよい脂肪分のある牛乳がパンにまとわり、しっとりとやさしい食感に。パンの麦の香りとうまみ、牛乳の風味や味わいは、お互いを邪魔することなく、それぞれが穏やかに主張します。そして、飲みこめばあと味はすっとクリアになって、また次の1口が欲しくなるのです。

ノン・ホモジナイズドの牛乳は、静置すると上の方にクリームの層ができる
「牛乳に合うパン」も販売

また、生乳の中には乳脂肪球が含まれていますが、その大きさは直径0.1~10μmくらいと、ばらつきがあります。脂肪球を細かく砕いて均質化する処理を施した牛乳が市販のものに多い「ホモジナイズド」です。均質化していない「ノン・ホモジナイズド」は、時間がたつと比重の軽い乳脂肪球が浮き上がってきて、上部にクリームの層ができます。このクリームをパンにつけて食べると、ミルキーなバターのようなテイストを楽しめます。

スタンドでは、吉祥寺・中道通りにある北イタリア料理レストラン「vineria harvest(ヴィネリア ハーベスト)」自家製の古代小麦のカンパーニュを「牛乳に合うパン」として販売しています。店先で、パンを牛乳に浸して食べるのもよし、牛乳をおうちに持ち帰り、クリームが上がってくるまで待ってみるのもよし、お好きなスタイルでパンとクラフトミルクのマリアージュを試してみてください。

STORE RECOMMENDATION 私のお店のおすすめ

リピーターも続出の「3種飲み比べセット」

月替わりの牛乳3種を少量ずつ味わえる「3種飲み比べセット」700円(税込)

月替わりで紹介している牛乳は、春から秋にかけては放牧の旬を迎える北海道の牛乳が多くなり、冬の間は西日本がメインになります。
放牧にこだわる牧場の人たちは、牛たちにおいしい草を食べさせるために、土づくりからこだわっています。広々とした牧場をのんびり自由に動き回り、お産や子育てもなるべく自然のままに任せてあげるなど、家族のように慈しまれ、大切に育てられている牛は、穏やかでとてもやさしい目をしています。初めて訪れる牧場でも、牛たちの表情を見た途端に「ここの牛乳は絶対おいしい!」と直感がひらめきます。そして、実際に間違いなくおいしいのです。

毎月のラインアップは、ホルスタイン種とジャージー種、あっさりめと濃いめなど味わいの違い、また、特長の際立った牧場の牛乳などをバランスよく組み合わせています。
今月(取材時の4月)は、北海道・清水のあすなろファーミングから、ホルスタイン種の「あすなろ放牧酪農牛乳」、熊本の玉名牧場の「ジャージーミルク」、静岡・袋井のデンマーク牧場のホルスタイン種とジャージー種の「ノンホモ低温殺菌牛乳」です。
いずれも低温殺菌、脂肪球を均質化していないノン・ホモジナイズドで、生乳そのままの風味や成分が保たれ、搾りたての牛乳に近い味わいを楽しめます。

「3種飲み比べセット」にはそれぞれの牛乳のプロフィールを添えて提供
店先やSNSで牧場の様子を発信

「3種飲み比べセット」は、当店に初めていらしたお客様にはもちろん、常連さんにも人気です。というのも、同じ牧場の牛乳でも、天候などで毎週味わいは微妙に変わります。「あっ! 先週より濃くなってる?! 」という発見があると、「じゃあ、来週になったらどう変化するだろう??」と、思わず確かめたくなるのかもしれませんね。

このほか、牛乳と相性のいいコーヒーや茶葉をセレクトし、水出しコーヒーと同様に、牛乳に浸して時間をかけて抽出した「ミルク出しコーヒー」や「ミルク出しほうじ茶」、熊本「なかはた農園」のイチゴを使った「いちごミルク」などのドリンクもあります。

吉祥寺「LIGHTUP COFFEE」の浅煎りコーヒーを牛乳でじっくり抽出した「ミルク出しコーヒー」650円(税込)
「ミルク出しほうじ茶」650円(税込)

そして、実は、東京にも30カ所くらい牧場があります(23区内にも1カ所、大泉学園に牧場があるんです!)。いずれも規模の小さい牧場で、自前の殺菌設備がないため、現状ではクラフトミルクとして味わうことはできません。東京の牛乳は甘みがあり、とてもおいしいのに味わうことができないなんてもったいない。そこで、当店の地下に生乳の殺菌加工やヨーグルト、ソフトクリームミックスを製造するラボを計画中です。2023年夏以降から稼働の予定なので、東京のクラフトミルク、こちらもぜひ楽しみにしていてください。

私たちがいろいろな牧場を訪れて毎回感じている「同じ牛乳なのにこんなに違うんだ!」という驚きを、皆さんにもぜひ実感していただきたくて、毎週末ミルクスタンドを開いています。
その違いが生まれるのはどうしてなんだろう?と、牛たちが育まれる牧場に興味を持ったり、青々とした牧草が風にそよぐ景色を思い浮かべながら、牧場のこだわりが詰まった牛乳を楽しんでもらえたら、なによりです。

店舗情報

店名
武蔵野デーリー CRAFT MILK STAND(クラフトミルクスタンド)
住所
東京都武蔵野市吉祥寺本町2丁目25−2
TEL
0422-22-0023
営業時間
金曜、土曜9:00~17:00、日曜9:00~16:00
定休日
月曜~木曜。※営業日、営業時間はSNSで確認を
URL
https://musashino-dairy.com/

※店舗情報及び商品価格は取材時点(2023年4月)のものです

※店舗情報及び商品価格は取材時点(2023年4月)のものです

パンを楽しむ美食の足し算