ニッポンのブーランジェ

地域に密着、町の人々の庭を目指す 
vol.16 ベッカライトーンガルテン 中川 貴之氏

横浜から相鉄いずみ野線に乗り換え約20分、弥生台駅に降り立つ。駅から住宅地を歩いて4分。センス溢れる白い外観と赤い看板が目印の可愛い店が見えてくる。ベッカライトーンガルテン(以下トーンガルテン)である。中川貴之シェフがこの地にパン屋をオープンして約5年。美味しいパンが買える店として愛されている。

本格的なパンが買える店

白いドアを開けて中に足を踏み入れると、赤を基調としたヨーロッパ調のセンス溢れる店内にさまざまなパンがズラリと並ぶ。「いらっしゃいませ」の元気な笑顔に、「今日は何を買おうか」とワクワクする。

平台には具材たっぷりの「フォカッチャ野菜」250円や「ソーセージとカレーキャベツ」260円など7種のフォカッチャや、カレーパン、「かねふく明太フランス」160円などの惣菜パン、「プチパン」120円や「ハイジの白パン」120円、「トーンガルテンシュー」200円、期間限定の「アップルパイ」300円、そしてドイツパンまで約60種が揃う。
一つひとつ丁寧につくられたパンは、中川シェフの腕が光る。どれもが完成度が高く、「この場所にこんな素敵なパン屋さんがあるなんて!」と地元の人々を感動させる。

オシャレだが親しみやすく居心地の良いパン屋さん。まさに中川シェフの想いが店にそしてパン一つひとつに込められている。
この店の特長は対面販売形式をとっていることだ。急いでいる人のためにトレーとトングを用意しているが、基本は会話をしながら買っていただきたいという想いからだ。
これには修業時代の世田谷の人気ベーカリー、ベッカライブロートハイム(以下ブロートハイム)のオーナーシェフ明石克彦氏の教えが浸透している。対面販売は「お客様と会話ができるし、きちんとした状態で商品をお渡しできる」と中川シェフは語る。

地域に寄り添う

店を訪れるお客様の層は幅広い。小さな子供連れや、シニア層、そしてランチを求める近隣のOLや男性客も訪れる。皆、スタッフと会話をしながら、楽しそうにパンを選んでいる。その様子を見ていると、「ここにパン屋を出してよかった」と実感できるという。ブロートハイムのコンセプトである「こんなパン屋さんがわが家の近くにあったらいいな!」を、しっかり実現しているようだ。

最初はお断りしていたが、最近は幼稚園などからのオーダーも受け、パンを提供しているという。それは子供たちに安全な自分のパンを食べてもらいたいという想いがあるからだ。

ちょうど取材に伺った時、たくさんのラスクを焼いていた。ゴロゴロラスクのギフトセット30人分のオーダーが入ったという。「実はこのラスクは自慢の味なんです。だから地域の人々のイベントに使っていただくことは大変嬉しい」と中川シェフ。カラフルなパッケージも用意、お土産用にも対応している。
オープンして5年、わが町の自慢のパン屋さんとして、すっかり根付いているようだ。

ハード系やドイツパンも得意

トーンガルテンで提供するパンは、菓子パンや惣菜パンから、バゲットなどハード系、そして本格的なドイツパンまでと幅広い。中でも人気ナンバー1は「ミルクフランス」175円という。カルピスバターを使った濃厚なミルククリームと、あっさりした口溶けのよいミニバゲットとの相性は抜群。また自家製のカスタードをたっぷり詰めたクリームパンも人気商品という。

最近は和風総菜を入れたおやきが人気という。「きんぴらごぼう」220円やピリ辛の高菜と明太が絶妙な味わいの「高菜明太」220円など3種類が揃う。そしてバターをたっぷり折り込んだサクサクの「クロアソン」170円も定番の人気商品だ。

中川シェフの一押しを伺うと「ハードトースト」300円(ハーフ150円)と「バゲット」260円(ハーフ135円)との答えが返ってきた。特にハードトーストは歯切れがよく、シンプルなので、一緒に食べる食材の味が引き立つという。実際、軽めにトーストするとサクサクの軽い食感がたまらない。
バゲットはクラストが香ばしく、噛み締めると粉の味わいがなんとも旨い。口溶けがよく、いくらでも食べられる。

そしてレジ前にはドイツパンを並べ、しっかりアピールしている。「フォルコンブロート」 530円(ハーフ270円)やライ麦100%の「ロッゲンミッシュブロート」750円(ハーフ380円)など5種類を揃えているが、特にライ麦パンにくるみやアーモンド、カシューナッツを入れた「ヌスブロート」840円(ハーフ425円)が人気という。
ドイツパンを食べたことがない人が試してみるキッカケになれたらいいなと、その良さを知って欲しいという想いから焼いているという。

さまざまな経験を肥やしに

中川シェフがパン職人を目指したのは高校時代のことだ。サラリーマンよりパン職人がいいなと、専門学校に進む。最初の修業先は、東京・練馬のYOU松月である。ここでは食パンやクリームパンなど、基本をしっかり身につけた。その後さまざまなパン屋さんで修業。ある勉強会でブロートハイムの明石さんに出会い惚れ込んだ。どうしてもブロートハイムに入りたいと、まずは桜新町に引っ越したという。当時からブロートハイムは人気店。他に希望者がいるから雇うのは無理だと断られたが、粘りに粘って、入社を許される。27歳の頃である。「その勇気ある行動に、あの頃の自分を褒めてあげたい」となつかしそうに語る中川シェフ。

ここでさまざまな経験をすることとなるが、パン職人としてはもとより、地域に密着したパン屋稼業としての商売の原点を、明石さんに学んだという。
その後、家庭の事情でブロートハイムを離れることとなり、日仏商事に転職。ここでのサラリーマン時代7年間でも更にさまざまな経験を積む。
「私のパン職人人生は山あり谷ありでした」と語る中川シェフだが、努力とその明るくて人に好かれるキャラクターで乗り切ってきた。

町の縁側として

そして2012年、満を持して弥生台に「ベッカライトーンガルテン」をオープンすることとなる。店名について伺うと、「トーンガルテンとは音の庭ということで、音とはパンの焼ける音であり、会話の音。会話ができる地域の庭のような存在でありたい」という想いでつけたという。会話ができる店という意味で対面販売にし、イートイン席も設けている。

弥生台を選んだ理由については、尊敬する仁瓶利夫さん、明石さんの近くにいたかったからという答えが返ってきた。「先輩たちが出店した場所のあまりにも近くに私が店を出しては申し訳ない。相鉄線沿線はパン屋があまりないので相鉄線沿線に決めた」。そして駅を一つずつ降りて、その町を好きになれるかどうか。相性を大切にし、選んだのが弥生台だったという。地域に密着するには自分がその町を好きでなくてはならないと中川シェフ。近くに八百屋や郵便局があり、地域の人々が集まってくるこの場所が気に入ったと。
地域に密着するとはどういうことか、その基本はブロートハイム時代に明石さんに学んだという。

この店のコンセプトは「東京の青山に行かなくても弥生台で済む」。そんな価値あるパン屋であり、職人でありたい。そして「お客様がこの店にきて良かったなと思っていただける店でありたい」と熱く語る。

パンづくりで一番力を入れていることは「夫婦ケンカをしないこと」。その理由は「常に平常心で、コンディションを整えて、パンづくりをすることが大切。パンという生き物を触っているのだから、いい状態でいたい」と。そのパン職人としての真摯に取り組む姿が、パン業界の重鎮である仁瓶さんや明石さんに可愛がってもらえる所以といえそうだ。
その仁瓶さんは愛用の自転車で時々訪れるという。中川シェフにとっては緊張するが嬉しい時間なのである。

基本を大切に

パンづくりでこだわっていることは「基本を大切にすること」とキッパリ。「昨日より今日のパンをよりおいしくしたい」その向上心が衰えることはない。アメリカを代表するパン職人で、「BREAD」の著者として名高いジェフリー・ハメルマン氏が、講演会で語った「今日ダメでも明日挽回できる。それがパン屋さん」のことばが頭に残っていると中川シェフ。「日常を大切にし、日々研鑽する。これがパン屋と自覚している」という。

今後の抱負を問うと、「地域の人が集まり、食を通じて仲良くなれる場として、地域の人々の縁側になりたい。そしてパン業界に少しでも役立ちたい」と。「昔からやってきたパン職人としての技術をきちんと次世代に伝えたい。それが私のパン職人としての使命」と語る。そこで大切なことは「基本をきちんとやること、そうしないと歴史が狂ってしまう」と、基本の大切さを強調する。「仁瓶さんや明石さんは基本を大切にし、正しいパンづくりの継承者として太い柱になられている。自分も細くてもいいから柱の1本になりたい」と。
手間を惜しまず美味しいパンづくりに励む中川シェフは、この町にすっかり溶け込み、お客様に愛されるパン屋さんとして、その存在価値が増しているようだ。

中川 貴之

1973年神奈川県生まれ。東京製菓専門学校パンアカデミー卒業後、(株)YOU松月、ラ・フーガス、ベッカライブロートハイム、日仏商事(株)に勤務、2012年、「ベッカライトーンガルテン」をオープン。以来、町のパン屋さんとして親しまれる。

ベッカライトーンガルテン

郵便番号/245-0008
住所/神奈川県横浜市泉区弥生台26-2 Vell House1F
最寄駅/相鉄いずみ野線弥生台駅
アクセス/弥生台駅から徒歩4分
電話/045-443-6338
営業時間/9:00~20:00
定休日/月曜

※店舗情報及び商品価格は取材時点(2017年4月)のものです

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