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虎ノ門に出店、
新たな可能性にチャレンジ
vol.43 BEAVER BREAD (ビーバーブレッド) 割田 健一氏

東京の新しいビジネスセンターとして躍動する虎ノ門。2023年10月、最後の砦として虎ノ門ヒルズステーションタワーがオープンした。地下に人気のパン屋さんが出来たと評判だ。東京・東日本橋の繁盛ベーカリー「BEAVER BREAD(ビーバーブレッド) 」の2号店「BEAVER BREAD BROTHERS」である。オシャレな店内には割田健一シェフ自慢のパンが揃う。この最新のビジネス街で、割田シェフが何を始めるのかと注目を集めている。

「BEAVER BREAD BROTHERS」

BEAVER BREAD BROTHERSオープン
虎の門で新しいチャレンジ 

店の中央には巨大な柱が

場所は駅直結のフードコート「T-MARKET」の入り口横という好立地だ。「T-MARKET」全体の空間デザインは、世界的なインテリアデザイナーとして名高い片山正通氏が手がけている。アート好きで若い頃から憧れだった片山氏に、思い切って自分の店のデザインもお願いしたと割田シェフ。オシャレでスタイリッシュな店舗は、新たな可能性を切り拓く起点となっている。
  “町のパン屋さん”を標榜し、1号店で東日本橋の街づくりに貢献してきた割田シェフ。虎ノ門への出店については、2年前「一緒に新しい虎ノ門の街づくりをしませんか!」との誘いに乗ったという。次世代のビジネスセンターとして完成した新しい虎ノ門の街を共に創るということに魅力を感じたと語る。

この店の設えはユニークだ。店内に足を踏み入れると、目に飛び込んでくるのは、可愛らしいビーバーが描かれた巨大な柱である。巨木を思わせる柱を回り込むと、奥には厨房が全て見渡せる2段式のカウンターがあり、そこには割田シェフ渾身のパンがズラリと並ぶ。カウンターの奥では、スタッフがキビキビと働く姿が見える。そのライブ感溢れる厨房を見ているだけで楽しくなる。

カウンターに自慢のパンが並ぶ
「THEクリームパン」など菓子パン類が

ビジネスパーソンに向けた品揃え

ここは東日本橋とは客層が異なる。ビジネスパーソン向けに1号店の人気定番メニューをアップデートしたパンや惣菜パン、焼き菓子類を揃えている。「バゲット」や「パンドミ」などの食事パンはもとより、菓子パンとしては、人気の「カカオニブメロン」300円、「THEつぶあんぱん」280円、「THEクリームパン」280円などが揃う。また「スコーン」類270円~300円や「カヌレ」270円、「クロワッサン」330円なども揃えている。北欧風の「シナモンロール」はシナモンとカルダモンの香りが食欲をそそる。

左メロンパン、右カカオニブメロンパン
シナモンロール

「サワードウブレッド」160円/100gは、熊本「ろのわ」のミナミノカオリを原料に、自家培養したルヴァン種を使って焼き上げている。開店当初は食べやすさを考え小型で提案したが、「サワードウブレッドは大きく焼いた方が美味しい」と、今は大きく焼いてカット販売している。違うと思ったら修正するのも早い。奥深い酸味が味わい深く、サラダなどランチに合わせるのにピッタリだ。

サワードウブレッドを焼き上げる割田シェフ
大きく焼いたサワードウブレッド

虎ノ門店限定の「クー」

カウンター中央に「クー」7種を提案

割田シェフはこの虎ノ門店を出店するに当たり、限定商品「クー」を開発した。「クー」とはビーバーのしっぽのことだ。「クー」はビジネスパーソンがカバンの中に潜ませ、小腹が空いたらいつでも食べられるようにと開発したという。トッピングがなく、デニッシュ生地でもないので、手でちぎっても汚れず食べやすい。
今までありそうで無かったパンだ。食パン生地に近いが、ふわふわしすぎずしっかりしているので食べやすい。粉は国産小麦の大吟醸(小麦の中心部分)を使っているので、雑味がない。だから素材の味が生きる。
1月末に伺うと「プレーン」250円、「栗」360円、「エチオピアコーヒー」360円、「熊本トマト」360円など、7種類も揃えていた。

一番人気は「栗」とのことだ。甘栗がゴロゴロ、マロングラッセも入っているから、優しい甘さが引き立ち何度でも食べたくなる。熊本トマトはドライトマトがたっぷり入っていて、酸味と旨味が凝縮しており、味わい深い。このままワインのお供になりそうだ。「クー」は食事にも、おやつとしても食べやすい。実に使い勝手がいいパンだ。

左「クー」栗、右「クー」チーズ
「クー」エチオピアコーヒー
「クー」について語る割田シェフ

作る側からすると「クー」は、包餡もトッピングもないから効率よく作りやすい。必要な時に何時でも焼けるという。「効率を考えたら最高のメニュー」と割田シェフ。2店舗目を運営するにあたり、少ない人数で効率よく作ることを重視した結果生まれた商品という。形はシンプルだが、中に具材がしっかり入っているから満足度が高い。「クー」は多忙な割田シェフが生み出した傑作といえる。

銀座のビゴとレカンで修業

ビゴとレカンで修業した腕をふるう

割田シェフといえば、ビゴとフレンチの名店レカン出身として知られる。高校時代はアーティストに憧れ、美術大学を目指していたという。しかし手に職を付けたいと当時銀座にあった「ビゴ」に就職。日本にフランスのパンを伝えたフィリップ・ビゴ氏、そしてビゴ東京の藤森氏にパンづくりの全てを学んだ。2007年には「モンデュアル・ドゥ・パン」に日本代表として出場し、世界のパン職人と腕を競った。
ビゴ東京で13年9か月パンづくりに携わり、その後銀座レカンのパンを担うこととなる。ここでは料理に合うパンを研究、提案してきた。
2014年には銀座に「ブーランジュリーレカン」をオープン。一流のフランス料理店が手がけるパン屋として注目を浴びた。割田氏が創り出す味わい深い食事パン、美しく完成度の高いヴィエノワズリーは評判になった。
このレカン時代の人脈が、割田シェフの仕事の幅を広げている。実際、この虎ノ門店にもレカン時代の友人が複数加わっている。こうしたネットワークの広さが割田シェフの大きな強みといえる。

「ビーバーブレッド」をオープン

その割田シェフが2017年11月、東日本橋の問屋街に「BEAVER BREAD(ビーバーブレッド)」をオープンした。店は3坪、厨房は10坪と小ぶりな店だ。20年間銀座で働いた割田氏だが、東日本橋のこの町で考えたのは「日本のパン」だった。食パン、メロンパンやクリームパン、惣菜パンなど、日本のパンを割田流にアレンジ、いかにリピート率を高くするかを考えた。良い材料を厳選、安売りせず「適正価格」を貫いてきた。その姿勢は今でも変わってはいない。
その後2階にラボや、サンドイッチルーム、事務所を広げたが、3坪の店を拡大することは無かった。「小さくても強い店を目指す」ことに注力した。その小さい店には常に行列が出来、コロナ禍でも売上は落ちることなく繁盛店として賑わった。
そして2022年には、近くにカフェ・レストラン「bouquet(ブーケ)」をオープン。オシャレで本格的なメニューが食べられる店として話題となった。

ビーバーブレット東日本橋店
東日本橋店の店内

虎ノ門店はバー業態にチャレンジ

その割田シェフは、虎ノ門店を出すにあたり、新業態をと考えた。カフェ・レストランは「ブーケ」で経験しているから、次はバーをやってみたいと。夜はバーに変身するという斬新なスタイルにチャレンジした。専門のスタッフを雇い2024年2月から本格的に営業を開始している。
2月中旬、19時に伺ってみた。昼間パンを並べている棚がバーカウンターに様変わり、オシャレなバーに変身していた。カウンターに並ぶ椅子がスタイリッシュで、本格的なバースタイルを演出している。ドリンク類もワインやウィスキーはもとより、さまざまなカクテルも提供している。

夜はオシャレなバーに変身
バーテンダーが出迎えてくれる
「クー」をおつまみに一杯

「ブーケ」の料理人がいるから、おつまみづくりは問題ない。しかもおつまみとしてのパンもある。人気の「クー」や「アンチョビオリーブ」280円、「カヌレ」もおつまみにピッタリだ。
虎ノ門ヒルズ駅直結の最高の立地で、帰りのちょっと一杯を提供する。

間口を広げて生き残る

入口横には、ジャムなどのスプレッド類やジュースなどの食品が充実。コーヒーや特選醤油もあるから驚く。キッコーマンさんとお仕事をしたご縁から取り扱うことにしたという。ハムやチーズ、ロゴ入りのグッズも提案。さまざまなプロとコラボするのも割田流だ。料理人やアーティストなど、その道のプロとコラボし、オリジナリティ溢れる味、そして店舗を創りだす。虎ノ門店外の壁には友人の山口一郎さんが絵を描いてくれたという。
原材料についても、「一つに限定することはせず、生産者やメーカーとの関わりを大切にし、間口を広げておく」と。それをベストバランスにアレンジするのが割田流だ。「限定しすぎず、間口を広げることが生き残る道」と割田シェフ。今後もさまざまなコラボ力で新たな世界を広げていくのであろう。

醤油も揃う関連グッズコーナー
友人の山口一郎さんが描いた絵の前で

柔軟な発想を武器に

虎ノ門店について語る割田シェフ

割田シェフはアイデアマンだ。パン職人はもとより、プロデューサーとしての顔ものぞかせる。過去には前橋の白井屋ホテルのベーカリーをプロデュースするなど、さまざまな仕事も手掛けている。取材中も、さまざまな人が割田氏を訪ねてくる。柔軟な発想でチャレンジ精神旺盛なところが、人を引き寄せるのであろう。4月末には料理とパンをテーマとした書籍を出版するという。どこにそんな時間があったのかと驚いてしまう。
有名店から町のパン屋に転身して6年、元気な仲間と共に、カフェ・レストラン、バー付きの虎ノ門店を出店するなど、そのチャレンジ力に驚く。虎ノ門店はオープンして4か月、「T-MARKET」の玄関口として、気軽で便利な店としての位置づけをしっかりと固めているようだ。

ここは海外に繋がる窓口となると睨む割田シェフ、最初から外国人客を意識して作ったという。片山正道氏にインテリアを依頼したのも、それが武器になると考えたからと語る。この虎ノ門店を起点に、次はどんな未来を創るのか、考えただけでワクワクする。

虎ノ門店を起点に夢が広がる

割田 健一氏

1977年生まれ。高校卒業後「ビゴの店」プランタン銀座店に入店。パン職人としての腕を磨く。2007年「モンディアル・デュ・パン」第1回大会の日本代表に出場。2011年から「銀座レカン」グループのブーランジェリーシェフを務め、2014年「ブーランジェリー レカン」を開店。退職後2017年11月東日本橋に「BEAVER BREAD」をオープン。2022年9月カフェ・レストラン「bouquet」を出店。2023年10月、虎ノ門ヒルズステーションタワーに「BEAVER BREAD BROTHERS」をオープン。柔軟な発想とアイデアで、さまざまなプロデュースも手掛ける。

「BEAVER BREAD BROTHERS」 ビーバーブレッドブラザーズ

郵便番号
158-0083
住所
東京都港区虎ノ門2丁目8 虎ノ門ヒルズステーションタワー
最寄駅
地下鉄虎ノ門ヒルズ駅
アクセス
虎ノ門ヒルズ駅直結
電話
03-6268-8712
営業時間
ベーカリー 8:00~18:30 バー19:00~23:00
定休日
日曜

※店舗情報及び商品価格は取材時点(2024年02月)のものです

※店舗情報及び商品価格は取材時点(2024年02月)のものです

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