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伝統と魅力が詰まったイタリアの郷土菓子

南北に細長く、山や海に囲まれたイタリアでは、古くからその土地ごとにさまざまな郷土菓子がつくられてきました。最近のマリトッツォのブームや焼き菓子への関心が高まる中、日本でも注目が集まっています。イタリア菓子の魅力やバリエーションを楽しめる専門店やカフェをご紹介します。

Litus(リートゥス)

2021年1月に、新富町にオープンしたイタリア菓子専門店。白を基調に店名の「渚」をイメージした店内には、アイテムを入れ替えながら、イタリア各地の郷土菓子を生菓子7~8種類、焼菓子6~7種類ほどを揃えています。

Litus(リートゥス)

住所
東京都中央区新富2-9-6 網代ビル 1F
電話
03-6275-2797
営業時間
11:00~18:00 ※売り切れ次第閉店
定休日
火曜、水曜 ※不定休あり
新富町駅から徒歩1分

穀粉のバリエーション、素朴な焼き色がイタリア菓子の魅力

タルト、揚げ菓子、発酵菓子、クッキーなどバリエーション豊富なラインアップ
オーナーパティシエの塩月紗織さん

オーナーパティシエの塩月紗織さんは、イタリア南部のシチリア、北部のロンバルディア、トレンティーノで郷土菓子を学び、帰国後はイタリアンベーカリー『プリンチ』にて、惣菜やスイーツのレシピ開発などを担当。2021年1月に同店をオープンしました。
イタリア菓子の魅力について、塩月さんにお話を伺いました。
「イタリア菓子は、現代フランス菓子のような華やかさよりも、昔からある郷土菓子がそのままの形で今も愛されていることが多いです。彩りといっても粉を焼き込んだ茶色、カスタードクリームの黄色、それに粉糖をまぶした白くらいで、見た目は地味ですが、なんといっても素材ありきの素朴なおいしさが魅力です。とはいえ、パスティッチェリア(菓子店)で出すには素朴すぎてもダメで、これなら自分でつくれる!と言われてしまいます。お店に来られる方はじめイタリアの方たちは、皆さん食へのこだわりが強いのです」(塩月さん)。

また、地産地消、季節のものをいただくことが当たり前で、季節外のものを使ったりするのは常識外なのだそう。
「そして、イタリアは粉大国。小麦粉の種類も多いですし、そば粉、片栗粉、とうもろこし粉などもお菓子に使います。とくに北部のほうで穀粉のバリエーションが豊富。使い分けることでまた違う食感が生まれます。食感といえば、特にシチリアなど、気候の暖かい南部ではバターがつくられないので、ラードをよく使います。ラードを使った生地は、よりサクサク感が生まれます。その代表格が『カンノーリ』です」(塩月さん)。

「カンノーリ」800円(税込)

カンノーリはシチリアを代表する揚げ菓子。ラードを練り込んだ生地を型に巻いて揚げ、食べる直前にリコッタクリームを詰めた、筒形のお菓子です。揚げると表面に気泡ができ、よりカリカリ、ザクザクした食感に。トッピングには、シチリア島ブロンテ産の香り高いピスタチオをたっぷり散らしています。

同店では、アイテムによって小麦粉は日本のものとイタリアのものを使い分けています。現地の味を再現しつつ、日本人の味覚にも合わせたレシピでつくっているそう。

「特に南部は保守的で、現代でもより甘いものが珍重されます。イタリア基準でつくってしまうと、日本では甘すぎてしまうことも多いので、日本の方にとっての一般的な甘さにしています。でも、ここはしっかり甘くしないと!というところでは甘くして、メリハリをつけています」(塩月さん)。

カンノーリとならんで、塩月さんのいちおしは「ボンボローニ」。イタリアの朝食の定番で、発酵生地を油で揚げたドーナツのようなお菓子です。こちらもオーダー後にクリームを詰めてお渡しします。クリームはリコッタチーズ、カスタード、アプリコットジャム、ピスタチオクリームから選べます。
「普通のイーストドーナツの感覚で食べると、皆さん驚かれるくらい、しつこさがない、とても軽い食感が特長です。粉の配合と発酵具合でこの軽さを出しています。揚げたときにぐるっと一周白い線ができるのが発酵がうまくいった証なんです」(塩月さん)。

同じく発酵菓子の「ババ」は、18世紀にポーランドで生まれ、フランスを経てナポリに伝わったお菓子。型に入れて焼いたブリオッシュ風のパンにリキュール入りシロップをひたひたに浸みこませ、ホイップクリームとブロンテ産のピスタチオをトッピングしています。

「ボンボローニ」530円(税込)
「ババ」700円(税込)
手前が「トルタミモザ」、奥はブラッドオレンジゼリーをのせた「パンナコッタ」

春の定番ケーキは、「トルタミモザ」。当初はホールケーキをカットして販売していましたが、カップに入れてスプーンですくって食べるスタイルに。マスカルポーネクリームとレモンクリームを層にして、上にダイスカットしたスポンジ生地をミモザの花のようにあしらいます。

おやつにぴったりのトルタやクッキー

「トルタ クレモナ」 700円(税込)

「イタリアの方たちは、朝食には必ず甘いパンを食べます。甘いものが苦手!という人には出会ったことがないくらい、1日の始まりには甘いものを食べるのが当たり前の習慣。マリトッツォかボンボローニ、女の子なら大きめのクッキーで済ませたり。夜が遅いので朝はあまりおなかがすいていない、ということもあるようです。おやつの時間にはパンではなく、タルトやクッキーを食べることが多いですね」と塩月さん。

タルトのおすすめは、「トルタクレモナ」。クレモナ地方のお菓子で、タルト生地を敷いた型にアーモンド粉とヘーゼルナッツ粉入りのスポンジ生地、表面に粉糖をかけ、アンズジャムでクロス模様を描いて焼きあげています。ナッツの香りとタルト、スポンジ、表面の粉糖の焼けた食感の変化を楽しめます。

焼き菓子のいちばん人気は花の形がかわいい「カネステレッリ」。イタリアから取り寄せた型で抜いたクッキーは、ゆでた卵黄入りでホロホロッとした食感が特徴的です。個包装の小さいサイズと、焼きたての大きいタイプを提供しています。
「ブッチェラート」は、もともとはシチリアのクリスマス菓子でしたが、今では通年で親しまれています。ドライイチジク、ピスタチオ、松の実などとはちみつのフィリングをセモリナ粉を使った生地で包んでリース型に。ドライフルーツとナッツのおいしさがギュッと凝縮されたお菓子です。

店内にはハイテーブルが置かれており、エスプレッソとお菓子をスタンディングでいただくこともできます。カンノーリやボンボローニはクリーム詰めたてを食べるのがいちばんだそう。
「これから陽が伸びてきたら、イタリア菓子の他にフォカッチャなどもつくって、イタリアビールやワイン、ちょっとしたお惣菜などとアペリティーボ(夕食前に軽いおつまみとドリンクでひとときを過ごす習慣)的に楽しんでいただけたら、とも考えています」(塩月さん)。

手前の花形が「カネステレッリ」300円(税込)
「ブッチェラート」400円(税込)

ビスコッティ専門店 Binasce
(ビナーシェ)

新松戸の住宅街にあるビスコッティ専門店。店主の山本慎弥さんは、本場を超えるビスコッティを追求。奥に工房を併設した店舗には、ホールアーモンド入りなど、常時12種類以上のビスコッティのほか、イタリアの焼き菓子などが並びます。

ビスコッティ専門店 Binasce(ビナーシェ)

住所
千葉県松戸市新松戸4-220-2
電話
070-8421-5049
営業時間
11:00~18:00
定休日
日曜、月曜、木曜。祝日は不定休
新松戸駅から徒歩8分

究極のビスコッティを目指して専門店をオープン

「ビスコッティ 厳選アーモンド」270円(税込)
店主の山本慎弥さん

店主で、ビスコッティ職人の山本慎弥さんは、元はイタリアンの料理人。フィレンツェを中心に2年間イタリアで料理修業をする中で、地元名物のビスコッティに出会いました。19世紀半ばに誕生して以来、100年以上愛されている焼き菓子に大いなる可能性を感じたそう。
山本さんに、ビスコッティの魅力や専門店を立ち上げたストーリーを伺いました。

「イタリアでは、いわゆるクッキー菓子全般をビスコッティと呼ぶこともありますが、元祖ビスコッティといえるのは、『2度焼きした』という言葉が語源となっている中部イタリアの伝統菓子だと思います。トスカーナ地方が発祥とされ、州都フィレンツェなどではお土産の定番。カリカリとした歯応えがcanto(=歌う)ように聞こえることから、カントゥッチcantucci(=小さな鳥のさえずり)とも呼ばれています」(山本さん)。

イタリアでの修業中に、まずはトスカーナで一番の老舗のビスコッティを試してみた山本さんですが、「100年以上続く銘菓」への期待値は高く、「もっとおいしいビスコッティが絶対あるはず!」と、街のお菓子店、ベーカリー、高級ホテルのショップなどを巡り、ビスコッティを試食することが日々の料理修業の合間の楽しみに。
「理想のビスコッティのイメージが出来上がっていく中、ついに『これだ!』と思えるビスコッティをつくっているベーカリーを見つけ、頼み込んで一緒に働かせてもらいました」(山本さん)。
帰国後、2014年に通販主体のビスコッティ専門店 Binasce(ビナーシェ)を起業し、2020年に現在の場所に工房兼実店舗を設けました。

「ビスコッティとは、本来は<ビス=2度、コッティ=焼いた>、つまり二度焼きしたお菓子の意味です。私は、敢えて<ビ=2度、スコッティ=よく焼いた>と解釈しています。<スコッティ>は『あらら、焼きすぎちゃった!』というニュアンスで使われたりもしますが、肉のローストでも野菜でも『半生』よりも『中までしっかり火を入れた』料理を好むイタリア人にとっては、ときに大切な調理表現です。当店のビスコッティは、小麦粉にしっかり火を入れ、その味と香りがいつまでも口の中に余韻として残るように、時間をかけてよく焼き込んでいるのが特長です」(山本さん)。

ビスコッティのバリエーションは常時12種以上
30g入りSサイズ各270円(税込)のほか、M、Lサイズもあります

使っている素材は、北海道産小麦粉、卵、バター、蜂蜜、ブランデー、食塩、香料(バニラ/オレンジ)、ベーキングパウダーといたってシンプル。材料を混ぜて棒状に延ばして焼いた生地を一度取り出し、熱いうちにカットして再びオーブンに。焦がさないよう温度調整しながらじっくりと焼き込んでいきます。手間も時間もかかりますが、これにより他の菓子にはない食感や香り、余韻の長さが生まれるそう。

ビスコッティは大きくナマコ型に焼いてスライスした、細長い三日月型をしているのが一般的ですが、本場のものよりも小さめの、一口サイズにつくっているのも山本さんならではのこだわりです。
「このサイズだと、前歯でかじらずにそのまま口に入れて召し上がっていただけます。奥歯で噛むほどに香ばしさや小麦のうま味が口の中いっぱいに広がって、小麦の豊かなおいしさを楽しんでいただけます。つくり手として最高のものをつくるのは当たり前なのですが、お客様が召し上がるシーンを具体的にイメージしてつくることを大切にしています」(山本さん)。

「ゴールデンベリー」270円(税込)

イタリアでビスコッティといえば、90%近くがアーモンド入り。ほかにはチョコレート入りがあるくらいだそう。同店ではこのほかにも、「黒糖マサラチャイ」「コーヒー&カシス」「いちじく&クルミ」「アールグレイ」「パルミジャーノ」など独自の味わいをビスコッティで表現しています。
「ビスコッティらしさを大切にしつつ、素材のおいしさもしっかり生かされて、何よりつくり手である私自身が「おいしい」と思えるかを大切にしています」(山本さん)。

いずれも、「焦がさずによく焼き込む」ことがビスコッティづくりの基本です。たとえば「ゴールデンベリー」は、古代インカ文明の時代から珍重されてきた栄養価の高いスーパーフード。そのまま生地に混ぜると焦げやすいため、シロップ漬けにしたものをペースト状にして混ぜています。素材に合わせて焼き時間をこまかく調整したり、混ぜる前のひと手間で、ベストな状態に仕上げています。
食べきりサイズのパッケージ、日もちもするお菓子なので、ギフトにも最適。プチギフトとして1袋だけでも様になり、多彩なバリエーションをセットにしても喜ばれます。

地元の名産を生かし、イタリアの食文化も紹介

イタリアの人たちは、季節のものや地元で採れるものを上手に生かすことを大切にしています。だからこそ、地方ごとに特色のあるお菓子が生まれてきたのでしょう。それに倣って同店では、千葉名産の落花生を使ったビスコッティをつくっています。「ちばビス」という名前でパッケージも専用につくり、成田空港のショップなどでも販売されています。
また、松戸の名物をつくろう!ということで生まれたのが「1867 巴里コッティ」です。松戸にゆかりのある徳川昭武(慶喜の弟)にちなんだ珈琲「プリンス徳川カフェ」を使ったビスコッティで、砕いたコーヒー豆の香りと食感を楽しめます。ネーミングは昭武も訪れた1867年パリ万博にちなんでいます。イタリアからはビスコッティがパリ万博に出品されたのだとか。

千葉名産の落花生を使った「ちばビス」464円(税込)~
松戸にちなんだ「巴里コッティ」270円(税込)
ビスコッティとデザートワインのペアリングもおしゃれ

イタリア(特にビスコッティが生まれたトスカーナ)では、ビスコッティと甘口のデザートワイン「ヴィンサント」が食後のひとときの定番です。ヴィンサントは甘いけれど、すっきりとしたキレ味のある芳醇なワイン。ビスコッティをワインにちょこんと浸していただくと、香ばしさにワインの香りが絡み合う大人のお菓子として楽しめます。同店では日本だとなかなか手に入りにくいヴィンサントも取り扱い、イタリア式のビスコッティの楽しみ方を紹介しています。

ビスコッティの他にも、「バーチ ディ ダーマ」(「アーモンド&チョコ」と「ヘーゼルナッツ&ラズベリー」の2種類)、メレンゲの焼菓子「ブルッティ マ ブオーニ」などもつくっています。「ブルッティ マ ブオーニ」とは「見た目は悪いけれどおいしい」という意味で、砕いたアーモンド入りのメレンゲを鍋で一度火を入れてから焼きあげたもの。一般的な白いメレンゲ菓子よりもサクサクでしっかりした歯ごたえ、香ばしさがあります。

「メレンゲをどうしてわざわざ一度鍋で火を入れるのだろう?と疑問に思っていました。私なりの推測ですが、ハンドミキサーもない時代、卵白の保形性を簡単によくするために思いついたイタリアのマンマの発明だったのかも。お菓子の名前やレシピから、そのお菓子が生まれた背景や当時の人々の暮らしぶりをあれこれ想像してみるのも楽しいものです。イタリアは、古代からヨーロッパ諸国や中東など、いろいろな地域との交流があり、1つのお菓子から地理や歴史への興味が広がっていきます。時空を旅するように、イタリアのいろいろなお菓子を味わってみてはいかがでしょう」(山本さん)。

「ブルッティ マ ブオーニ」420円(税込)
「バーチ ディ ダーマ(アーモンド&チョコ)」380円(税込)

DROGHERIA SANCRICCA
(ドロゲリア サンクリッカ)

イタリア・マルケ州出身のオーナー、マッテオ サンクリッカさんのイタリア食材店&カフェ。店内にはパスタやオリーブオイル、バルサミコ酢をはじめとしたこだわりのイタリア食材が揃い、香り高いエスプレッソや手づくりのイタリア菓子、軽食などをイートインすることもできます。

DROGHERIA SANCRICCA
(ドロゲリア サンクリッカ)

住所
東京都港区白金1-5-7 1F
電話
03-3444-0516
営業時間
8:00~19:00(LO.18:30)
定休日
水曜
白金高輪駅から徒歩5分

ヘーゼルナッツが香るマリトッツォやバーチディダーマ

マルケ州伝統のボート型の「マリトッツォ ドルチェ」600円(税込)
オーナーのマッテオ サンクリッカさん

「ドロゲリア」とはイタリアで食品などを扱う地域に根づいた食料雑貨店のこと。同店では、現地の生産者と直接やり取りをしながら、オーナーのマッテオさんが研ぎ澄まされた味覚と感性で厳選した、無添加のイタリア食材を揃えています。そして、これらの食材を使ったパンや焼き菓子、軽食などを楽しめることも同店の魅力の1つです。マッテオさんに自慢のイタリア菓子についてお話を伺いました。

「イタリアでは、地方ごとに地元名産の食材を使い、そのおいしさを最大限に生かしたさまざまなお菓子が生まれ、長く愛されています。日本の皆様にはまだあまり知られていないお菓子を紹介して、イタリアの食文化や食材のすばらしさをたくさんの方に知っていただけたら、と願っています。また、小さなお子さんからお年寄りまで、どなたにも安心して召し上がっていただけるよう、1つ1つ丁寧に手づくりすることも当店のこだわりです」(マッテオさん)。

たとえばマリトッツオ。日本では丸いブリオッシュにクリームをたっぷりはさんだローマ発祥のスタイルがおなじみですが、同店のマリトッツォはマッテオさんの出身地マルケ州伝統のボート型です。イタリア本国でもこの形はとても珍しいそう。たっぷりの生クリームの下には、ピエモンテ産IGP*ヘーゼルナッツを58%も使ったチョコクリームがカスタードと一緒に隠れています。
*IGP・・・Indicazione Geografica Protetta(保護指定地域表示)の略語で、厳しい基準を満たしたものだけが認証され、産地を名乗ることができる。

バターの代わりにオリーブオイルを練りこんで、ふんわりと焼きあげたパンはとても軽い食感。頬張ると口の中いっぱいにヘーゼルナッツが香り、甘さ控えめのクリームと溶け合います。クリーム山盛りの見た目に反して、ペロリと1個を難なく食べられてしまう軽やかさが特長で、「朝食の定番」というのもうなずけます。

ピエモンテ州名産のヘーゼルナッツ「トンダ・ジェンティーレ」は「ヘーゼルナッツの女王」と呼ばれるほど、芳醇な香りと濃厚な味わいが特長です。マリトッツォと並んで、その魅力を存分に楽しめるのが「貴婦人のキス」という意味がある「バーチディダーマ」です。クッキー生地にもピエモンテ産IGPヘーゼルナッツをふんだんに使い、2つのクッキーの間には「ピエモンテ産IGPヘーゼルナッツピュアペースト」とチェコレートをサンド。ヘーゼルナッツをふんだんに使用したこのクリームは、少量でもナッツ感が際立ち、サクサクのクッキーはまるでヘーゼルナッツそのものを食べているかのような芳ばしさと豊かな味わいです。
手にとったときの香り、食べてみてわかる贅沢な素材づかいこそが、マッテオさんのこだわりです。

たっぷりの生クリームの下には、カスタードとヘーゼルナッツチョコクリーム
まるでヘーゼルナッツそのものを食べているようなナッツ感を楽しめる「バーチディダーマ」250円(税込)

イタリアのお菓子にはアモーレ(愛)がいっぱい

「イタリアの伝統菓子には1つ1つにエピソードがあります。とくに人と人とのつながりや愛がキーワードになっているものが本当に多いのです。お菓子の背景にあるストーリーもぜひ楽しんでください」(マッテオさん)。

新しくメニューに加わった生菓子「ソスピーリ」は、「愛のため息」という意味です。イタリア南部プーリア州、アドリア海を見下ろすビシェーリエの街の伝統的なドルチェです。スポンジケーキの中にカスタードクリームを詰めて、表面を砂糖と卵白のグレーズでコーティング。このお菓子の由来は諸説ありますが、その形は修道女のおっぱいをイメージしたものだそう。平飼い鶏の卵を使ったスポンジは型は使わずに天板に生地をドーム状に絞り出して焼き上げています。
ふんわりとやわらかなスポンジの形を保つには、生地の配合や焼き加減を何度も調整するなどで、大変苦労したそう。スポンジの中にレモンの皮で香りづけされたクリームが入っており、しっとりやさしい食感が味わえます。見た目はシンプルながら、実はとても手間のかかったお菓子です。

「ソスピーリ」400円(税込)
「 La Merenda Reale (貴族のおやつ)」1,600円(税込)

カウンター上ではイタリアから取り寄せた金色に輝く円筒状のエスプレッソマシンが目を引きます。日本ではこの店にしかない、クラシックなフォルムのマシンで淹れるエスプレッソを楽しめます。
また、イタリア菓子と濃厚なチョコレートドリンクをセットにしたのは「貴族のおやつ」。
「トリノは世界で初めてチョコレートプラリネがつくられた街で、古くからチョコレート文化が発展してきました。当初は固めたチョコではなく、溶かしてドリンクとしていただくことが主流でした。『チョコラータカルダ』は、とろみがあるホットチョコレート。飲む、というよりはスプーンやクッキーですくって食べるのがイタリア流です」(マッテオさん)。
ほどよい甘さの「チョコラータカルダ」に、イタリアの伝統的なクッキー3種「クルミーリ」「サボヤルディ」「バーチディダーマ」を添えて、優雅なおやつタイムを楽しむことができます。

「クルミーリ」1個150円(税込)
「サボヤルディ」120円(税込)

「クルミーリ」は、バターが香るクッキー。とうもろこし粉を使うことで、独特の風味と食感が加わります。「く」の字の形は、イタリア初代国王の口ひげをかたどったといわれ、チョコラータカルダに合わせる定番のクッキーです。
「サボヤルディ」は、かつてピエモンテとフランス、スイスにまたがる一帯を支配した貴族サヴォイア家にちなんだクッキーです。メレンゲを加えて、さっくりとしたごく軽い食感。「ディータ・ディ・ダーマ」(貴婦人の指)とも呼ばれ、ティラミスなどに添えられることも多いです。
このほか、宗教的な行事にまつわるお菓子が多数あるのもイタリアならでは。2月のカーニバルの時期には、揚げ菓子「キアッケレ」なども登場します。レモンの皮を入れた生地を薄く伸ばして揚げた、カリカリ、サクサクの食感です。

「日本では、焼き菓子というとフランス系がほとんどですが、イタリアのお菓子は、バターではなくオリーブオイルなどを使ったものも多く、食感や味わいに違いが生まれます。ぜひ、イタリアのお菓子を召し上がって、その魅力を知っていただけたらと願っています」(マッテオさん)。

Bicerin 新宿高島屋店(ビチェリン)

「Bicerin(ビチェリン)」は、創業1763年のトリノの老舗カフェで、日本での出店は2018年から。新宿高島屋店は国内直営8店舗のうちの1つです。深いグリーンをテーマカラーにしたシックな店内では、店名を冠したチョコレートドリンクの「ビチェリン」や、「バーチ・ディ・ダーマ」などの焼き菓子、発酵菓子「パネットーネ」などを楽しめます。

Bicerin 新宿高島屋店(ビチェリン)

住所
東京都渋谷区千駄ヶ谷5-24-2 高島屋タイムズスクエア 3F
電話
03-5269-0008
営業時間
11:00~19:30(LO.19:00)
定休日
なし
新宿駅から徒歩3分

手土産にも大好評の「バーチ・ディ・ダーマ」

温かいエスプレッソとチョコレート、冷たいホイップクリームの3層が絶妙なドリンク「ビチェリン」と「バーチ・ディ・ダーマ」15個入り3,975円(税込)
ビチェリン・アジアパシフィックアンドミドルイースト株式会社 代表取締役副社長の吉岡仁さん

フランスと国境を接するピエモンテ州トリノは、華やかなカフェ文化が花開いた街。トリノの「Bicerin(ビチェリン)」は、創業から現在まで250年以上、世界中の著名人たちに愛され続けています。日本での店舗展開を担っているのは、ビチェリン・アジアパシフィックアンドミドルイースト株式会社です。同店名物の「バーチ・ディ・ダーマ」は、2019年G20大阪サミットの際に、各国首脳へのおもてなしの一環として提供されたというエピソードでも有名です。同社副社長の吉岡仁さんにお話を伺いました。

「バーチ・ディ・ダーマは、トリノの伝統的な焼菓子で、アーモンドプードル入りの生地をサクサク軽い食感に焼き上げ、チョコレートをはさんだ小ぶりのクッキーです。アーモンド入りのクッキー『アマレッティ』のバリエーションの1つで、その形がキスマークに似ていることから、イタリア語で『貴婦人(dama)のキス(baci) 』の名がついたようです。また、バーチ・ディ・ダーマがフランスに伝わり、マカロンの原型になったともいわれています」(吉岡さん)。

コロンとかわいらしいフォルムの「バーチ・ディ・ダーマ」各378円(税込)

使っているチョコレートと基本のレシピはトリノのBicerinと同じですが、小麦粉や乳製品など日本で手に入る素材を使って最高のおいしさを追求することと、日本人の味覚や風土に合わせたアレンジにもぜひ取り組んでほしい、との本国「Bicerin」からの要望もあり、チョコレート味の「プレーン」のほか、「エスプレッソ」、伊勢神宮・神宮司庁御用達「芳翠園」の抹茶を使った「抹茶」の3種類を定番に。その他にも、季節によってさまざまなフレーバーを展開しています。「抹茶」や黒ゴマペーストを練り込んだ真っ黒なバーチ・ディ・ダーマ「ネラ」、純米酒「七田」の酒粕を生地やクリームに使った「JUNMAI」は、逆輸入の形で本国イタリアでも好評を博したそう。

商品開発に当たっては、日本で独自に企業経営者300名以上、秘書1,000名以上を対象に、接待の手土産の条件についてアンケートを行いました。
「その結果を反映して、甘さは控えめに、クセは強すぎず誰からも好かれるおいしさであること。特に小麦粉と相性のよい良質のバターをたっぷり使うことで、しっかりとリッチな味わいと、アーモンドが香るサクサクの食感を出すことにこだわりました」(吉岡さん)。
さらに、常温で日持ちすること(180日間)、1つ1つの配りやすさ、高級感のあるパッケージデザインやサイズ、さらには、ビジネスバッグに箱を縦に入れて持ち運んでも中身が片寄ったりしないなど、実際の活用シーンを想定して、こまやかな配慮を尽くした商品が出来上がりました。店舗のほか、オンラインショップでも販売されています。

「パネットーネ」や「スフォリアテッラ」にも注目が集まっています

イタリアから空輸される「パネットーネ」6,480円(税込)/1個・500g

イタリア北西部の郷土菓子「パネットーネ」は、洋酒につけたドライフルーツをふんだんに練りこんだブリオッシュ生地をドーム状のパネットーネ型で焼き上げた発酵菓子。もともとはクリスマスのお菓子で、ドイツのシュトレンと同様に、日がたつにつれフルーツの味と香りが生地になじんでいくので、11月の後半くらいからクリスマスにかけて少しずつ食べ進めていくのが習わしでした。
「今ではイタリアでも通年楽しまれています。ドライイーストを使えば、より簡単に作ることはできますが、パネットーネならではのおいしさは、自家製の酵母を起こし、発酵を何段階にも分けて数日かけて行う伝統的な製法から生まれます。酵母や生地の管理が難しく、手間も時間もかかるので、料理自慢のイタリアのマンマも口をそろえて『パネットーネはパン屋で買うべし!』と言うくらいです」(吉岡さん)。

「パネットーネ」880円(税込)

パネットーネの具材は、洋酒漬けのレーズンとオレンジピールを使ったものが一般的です。Bicerinのパネットーネは、基本の「クラシコ」のほかに、「レモン」「桃とチョコレート」などさまざまなフレーバーが季節がわりで登場します。同店では、イタリアから空輸し、カットしたものにホイップクリームを添えてカフェで召し上がっていただけるほか、入荷状況にもよりますが、ホールの販売も行っています。
「マリトッツォのブームが一巡して、パネットーネの人気が高まってきたようで、パネットーネを置く店も増えてきました。当店でも最近では、とくに通販での需要が大変増えています」(吉岡さん)。

パリパリッという音が聞こえてきそうな「スフォリアテッラ」 880円(税込)

新しく加わったメニューが「スフォリアテッラ」です。1600年ごろ南部アマルフィの修道院で生まれたお菓子と言われています。繊細な層が何重にも重なったパイのようなお菓子ですが、生地を折りたたむのではなく、こねて薄く伸ばした生地の表面にラードを塗って端からクルクルと巻いて棒状にします。一晩休ませたのち、棒状の生地を輪切りに。円盤状の生地の真ん中を押し出してとんがり帽子(修道女がかぶる帽子)の形に成形し、中にフィリング(同店ではリコッタチーズ、オレンジピールとシナモン)を入れて焼きあげます。バターの代わりにラードを使った生地は、よりパリパリした食感を楽しめます。

「バーチ・ディ・ダーマもスフォリアテッラもオヴィスなどのクッキーも、見た目は日本のおせんべいみたいに地味で素朴ですが、1つ1つを手作業で成形するなど、手間をかけてつくっています。人の手で生地を丸めることで生じる微かなムラは、実はおいしさをつくるための大切な要素。限られた素材でも、どうやったらもっとおいしくなるかを探求し、手間暇を惜しまないのがイタリア人のこだわりであり、イタリア菓子の真髄です」(吉岡さん)。

職人が1つ1つ手づくりしています
手前は片栗粉、卵黄を使ったホロホロ食感のクッキー「オヴィス」270円(税込)

日本で一大ブームとなったマリトッツォも地方によってはボート型をしていたり、ボンボローニやカンノーリ、ビスコッティ、バーチディダーマなど、イタリア菓子の世界には、小麦粉の香りやうまみを存分に引き出した魅力的なお菓子が実にたくさんあります。お気に入りのイタリア菓子を見つけてみてはいかがでしょうか。

※店舗情報及び商品価格は取材時点(2022年5月)のものです

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