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日替わり・季節・気まぐれ 限定パンが魅力のベーカリー

つい手を伸ばしてしまう、日替わり・週替わり・季節などの限定アイテム。今回は、そうした特別感のある限定アイテムが充実しているベーカリーを取材しました。各店の限定アイテムの魅力、商品づくりへの想いをご紹介します。

Universal Bakes and Cafe
(ユニバーサル ベイクスアンドカフェ)

中目黒にあるヴィーガンカフェ店主の大皿彩子さんが2020年5月に立ち上げた“100%ヴィーガン”のベーカリー。1日に40種類ほどのパン、焼き菓子が揃い、テイクアウトのほか、店内とテラスでイートインもできます。日替わりのVEGANマフィン、週替わりのスコーン、パンによく合う「本日のスープ」も人気です。

Universal Bakes and Cafe(ユニバーサル ベイクスアンドカフェ)

住所
東京都世田谷区代田5-9-15
電話
03-6335-4972
営業時間
8:30~18:00
定休日
月曜、火曜
世田谷代田駅から徒歩3分

毎日違うフレーバーを楽しめる100%Veganでつくるマフィン

この日のVEGANマフィンは「抹茶」「チョコレートとクランベリー」の2種類が登場
店長の田村涼子さん

同店のいちばんの特長は、パンや焼き菓子はじめ、すべてのアイテムに動物性の食材は一切使わない、100%ヴィーガンであること。甘味料にはてん菜糖やメープルシロップなどを使用しています。オーナーの大皿彩子さんにお話を伺いました。
「ヴィーガンと聞くと、なんだか難しそう! とか、固くて味気ないパンやお菓子?といったイメージを抱かれるかもしれませんが、私たちが何よりも大切にしているのは、ヴィーガンの方にもそうでない方にも、食べておいしいと喜んでもらえること。どんな素材が使われているかをいちいち気にしなくても、世界中の誰もが隔てなく一緒に同じ食を楽しめることがヴィーガンの本質です」(大皿さん)。

店名の「Universal」には、「ユニバーサルデザイン」が意味するところと同様に「誰にでも届く食べ物にしたい」という想いが込められています。

「VEGANマフィン」各500円(税込)

人気アイテムの1つが毎日違うフレーバーが登場するVEGANマフィンです。マフィンといえば、卵やバター、ミルクをたっぷり使うイメージがありますが、同店のパンや焼き菓子は、単に既存のレシピから卵やバター、ミルクなどを植物性のものに置き替えただけのものではありません。アイテムごとに最適の素材を選び、取り合わせ、製法を工夫してレシピを組み立てています。

「お客様から『生地が美味しい!』とご好評いただいています。卵やバターを使ったレシピと比べて、北海道産の小麦や全粒粉の香り、味わいをよりはっきりと感じていただけると思います」(大皿さん)
マフィンはリピート率の高い商品で、週に何度もお買い求めになる方が多く、いつ来ても違う楽しみがあるようにしたいと考えて日替わりアイテムとしたそう。

「パン生地もお菓子生地も、素材そのものが生きる味わいに仕上げています。マフィンは秋冬ならりんごやさつまいも、かぼちゃや栗といった、季節感を感じていただけるフレーバーも人気です」(大皿さん)。
取材した日のマフィンは、「チョコレートとクランベリー」「抹茶」の2種類。「チョコレートとクランベリー」は、ヴィーガンチョコレートを練り込んだ生地の中に、チョコレートとみずみずしいクランベリーがたっぷり。上にクランブルをのせて焼きあげています。 合わせる素材によって生地の配合も少しずつ変えて、より素材のおいしさがダイレクトに伝わるようにつくっているそう。

「抹茶」は、抹茶生地の中に白あんと求肥が包まれています。青エンドウの煮豆も入ってお豆の食感と味わいをプラス。
どちらもしっとりした生地に全粒粉のプチプチ食感が加わって、穏やかな甘さと素材の風味でリピートしたくなるおいしさになっています。

日替わりマフィンのフレーバーは、ほかにもチョコレート生地にダイスチョコレートとベリーをあわせた「ダブルチョコレート&ベリー」「紅茶生地にドライいちじく」「アップルシナモン」「ダブルチョコバナナマフィン」などが登場しています。

「抹茶」の中には白あんと求肥
桜の季節には桜をテーマにしたマフィンが登場

定番のアイテムにも旬の素材を取り入れて一期一会の楽しみも

同店ではマフィンのほかにも、日替わり・週替わりで登場する商品を数多くそろえています。スコーンは定番の「スコーンココナッツ」に加えて1種類が週替わりで登場。取材時は、「チョコレートとクランベリーの抹茶スコーン」。厳選したココナッツオイルを練り込み、さっくりふんわりとした食感が特長です。
「次はこんなスコーンを食べてみたい」とのお客様のご希望にこたえるのも、つくり手の楽しみの1つだそう。

「週がわりのスコーン」420 円(税込)
季節の素材をのせたフォカッチャ

また、取材当日は週2回の「食パンDAY」として、食パン、バゲット、クルミパン、ブドウパン、米麹のチャバタなど、食事パンの種類を多く揃えています。バゲットにも日替わりアイテムが加わり、この日はバゲット生地にブラックとグリーンの2種類のオリーブをのせた「バゲットオリーブ」。ふっくらやさしい甘さの大納言小豆をバゲット生地にたっぷり包んだ「大納言バゲット」と交互に提供するほか、ベイカーの気まぐれでくるみ入りや海苔塩のバゲットなどが登場することもあります。
「食パンDAY」の惣菜パンは、じゃがいもを練りこんだもちもち生地を大きく焼いたフォカッチャが2種類、丸いフォカッチャ生地に野菜などをのせて焼いたアイテムが各種揃います。
それ以外の日は「カンパーニュDAY」として、カンパーニュのタルティーヌをラインアップ。季節の野菜を色鮮やかにのせた惣菜系とフルーツにアーモンドクリームやヴィーガンカスタードを合わせたスイーツ系のタルティーヌ各種がカウンターを彩ります。

「バゲットオリーブ」460円(税込)
「食パンDAY」には食事パンが充実

「このほかにも、2カ月に一度『秋の収穫祭』『旅するユニバーサルベイクス』などテーマ性を持たせたイベントを実施しており、世界中のパンや料理・お菓子からインスピレーションをうけた商品をつくったりもします。つくり手は新しいものを生み出すために苦労しますが、さまざまな情報を収集し、実験を繰り返すことでクリエイティブの幅が広がると考えています。お客様には一期一会を楽しんでいただけたら嬉しいです」(大皿さん)。

工房と売り場が一体となった空間で、窯から取り出した焼きたてパンが次々とカウンターに並べられていきます。
「働く人の息づかいがお客様にダイレクトに伝わる現場では、毎日が限定、毎日が日替わりだと思います。限定をつくろう、と強く意識しているわけではありませんが、日々自分たちをアップデートしていこう、日本の四季から学ぼう、とする姿勢が価値ある商品を生み出していくと思っています」(大皿さん)。

ジャガイモ入りの生地を大きく焼いたフォカッチャ
野菜の彩りも鮮やかなタルティーヌ

根津のパン

上野桜木にあったカヤバベーカリーのパンづくりを担ってきた野口将義さんが2018年にオープン。もとはお豆腐屋さんだった店舗をほぼそのまま活用した外観は、一見ベーカリーとは気づかない佇まいで、根津の街の路地にしっくりなじんでいます。40種類ほどのラインアップの1/3くらいは日替わりで、夜に翌日分の日替わりパンをSNSでお知らせしています。

根津のパン

住所
東京都文京区根津2-19-11
電話
非公開
営業時間
10:00~19:00 ※売切れ次第閉店
定休日
月曜、木曜 ※不定休あり
根津駅から徒歩2分

バゲット生地でつくる「今日のパン」

5種類の「今日のパン」。手前右から時計回りに「3種のペッパーとカシューナッツ」「ブルーベリーとクランベリー」
「3種のペッパーとカマンベールチーズ」「チョコバゲット」「ブルーベリーとクリームチーズ」
オーナーシェフの野口将義さん

同店では、ほとんどのアイテムに自家製レーズン酵母と国産小麦粉を使い、どれも加水多めで長時間発酵の、しっとりもっちりした食感と小麦の香りが特長です。

日替わりのパンは、バゲット生地を使った「今日のパン」と、日によっていろいろなフレーバーが登場する食パンです。日替わりで多彩なパンを提供し始めたきっかけなどをオーナーシェフの野口将義さんに伺いました。
「パン職人は、それぞれたくさんのレパートリーを持っていますから、日替わりでいろいろなパンをつくるのは、つくり手にとっても楽しいですし、何よりもお客様に変化を楽しんでいただけます。スタート当初は、その時々で手に入る新しい素材を使い、お試し的に日替わりで出すこともありましたが、今では日替わりとして出すラインアップはほぼ固まっています」(野口さん)。

定番のパンに交じって本日のパンが並ぶ

対面式の販売方法で、正面のカウンターにはバゲットはじめ、多彩なパンが勢ぞろい。毎日4~5種類の「今日のパン」が定番のパンに混じって並んでいます。

取材時の「今日のパン」は5種類。どれもバゲット生地をベースにして、表情も味わいも多彩な展開です。ブラック、グリーン、ピンクの3種の胡椒を練り込んだ生地にカシューナッツをたっぷり入れた「3種のペッパーとカシューナッツ」はプチバゲット型。同じペッパー生地でカマンベールチーズを丸く包んだのが「3種のペッパーとカマンベールチーズ」です。かむほどに粗挽きのペッパーが鮮やかに香りたち、濃厚なカシューナッツやカマンベールとも好相性です。

ジューシーなブルーベリーとクランベリー、クルミをたっぷり楽しめるのが、バトン型の「ブルーベリーとクランベリー」。「ブルーベリーとクリームチーズ」は、頂上からクリームチーズがあふれた豪快なビジュアル。高加水な生地に具材ぎっしりで、手にしたときにずっしりとした重みがあります。
「チョコバゲット」は、チョコパウダーを練り込んだ生地にチョコレート、レーズン、オレンジピール入り。甘さは控えめでカカオの風味とフルーツの甘酸っぱさと香りを楽しめます。

バゲット生地から生まれる多彩なバリエーション
「ブルーベリーとクリームチーズ」320円(税込)

「今日のパン」は、ほかにも「いちじくとくるみ」「イチジクとくるみとクリームチーズ」「レモンとジンジャー」「黒豆ときなこ」「パインとオレンジ」「栗カフェ」「クランベリーとヘーゼルナッツ」「トマトとバジル」「アーモンドとくるみ」「紅大豆きなこ」などがランダムに登場します。

食事パンとして、またお酒のおつまみにも、日々の食卓がにぎわうこと間違いなしです。 「当店のお客様はほとんどが地元の方。定番のパンのほかに、来店するたびに違うアイテムに出会っていただけるのが『今日のパン』のよさだと思います。『栗のライ麦パン』『フルーツカンパーニュ』『ノアレザン』など、日替わりから始めて定番化した商品もあります」(野口さん)。

食パン類も日替わりアイテムで種類が豊富

「ごまパンドミ」1本540円、1/2本280円(各税込)

お店に入って左手の棚は、食パンのコーナー。焼き上がったパンが次々と並んでいきます。 同店では唯一ストレート法でつくっている「角食パン」と「山型食パン」のほかに、ひとまわり小さなサイズの山型の「パンドミ」、はちみつとマスカルポーネチーズを練り込んだ「はちみつブレッド」、仕込みの水は使わずに牛乳とコンデンスミルクでつくる「ミルクブレッド」があります。

「パンドミ」は、長時間発酵でしっとり、もっちりした食感、のびのびと膨らんだ内層は炊きたてごはんのようなつややかさが特長です。このほかに「米粉パンドミ」「パンドミブラン」が定番のラインアップ。さらに基本のパンドミの生地をベースにさまざまなバリエーションを展開し、日替わりで1日4~5種類が加わります。この日は、「ぶどう」「ごま」「ごまとレーズン」「フロマージュ」「くるみ」。ほかにも「雑穀」「ミルク」「チョコ」「よもぎと大納言」などがあります。

「はちみつブレッド」の日替わりは「はちみつりんご」。基本のはちみつブレッド生地に、ドライリンゴとシロップ漬けのリンゴ、シナモンやカルヴァドスなど、リンゴと相性のいい素材を組み合わせています。
ミルク生地を使った日替わりは「オレンジミルクティー」。オレンジピールと紅茶の茶葉が香ります。
「はちみつゆずレモン」「はちみつりんごジンジャー」「はちみつレモンティー」「オレンジミルク」「チョコ」「オレンジチョコ」「米粉」など、ほんのり甘いはちみつやミルク生地の食パンを日替わりで楽しめます。

日替わりで食パンのバリエーションは多彩に
「パンドミ」1本500円、1/2本260円(各税込)

このほか食事パンは、「カンパーニュ」は日曜限定、それ以外の日には「ライ麦パン」「全粒粉のパン」を用意しています。

「『大葉ハーブソーセージ』などの惣菜パンや菓子パン類も人気はありますが、やはり食事パンはパン屋の基本ですし、力を入れていきたいところ。地元のお客様の日常の食卓で食べていただけるパンを提供し続けること、奇をてらうよりも普通のパンをおいしくつくることを何より大切にしています」と野口さん。

売り場のPOPには、とくに「限定」「日替わり」などの表示はされていません。お客様がたくさんの種類に迷っていらっしゃるときや、焼きたてが棚に加わるタイミングなどで、スタッフが随時声をおかけしています。 「これが本日の限定ですよ!と積極的にアピールするわけでもなく、いつものパン屋のいつものパン、という安心感とともに、前に来た時とはちょっと違う今日のバリエーションの中から、楽しく選んでいただけたらと思っています」(野口さん)

ほんのり甘いミルクブレッドやはちみつブレッドも人気
「はちみつりんごブレッド」1本600円、1/2本310円(各税込)

PANSHARE(パンシェア)

閑静な住宅街に2021年11月オープン。オーナーシェフの本多伸也さんは、開業直前まで「ザ・ペニンシュラ東京」のベーカリーシェフを務め、製パンのコンテストの受賞歴も多数。手ごねにこだわったバゲットやカンパーニュ、フランス産発酵バターを使ったクロワッサンはじめ、日替わりアイテムを含めて40~45種類のパンが揃います。

PANSHARE(パンシェア)

住所
埼玉県白岡市新白岡1-1-3
電話
非公開
営業時間
11:00~18:00 ※売り切れ次第終了 
定休日
月曜、火曜 ※不定休あり
新白岡駅から徒歩4分

毎日通っても飽きない日替わりのサンド

「桃トマトソースのキャロットラペサンド」380円(税込)
オーナーシェフの本多伸也さんとマネージャーの美希さんご夫妻

同店の日替わり商品は、自慢の食事パンを使ったサンドやタルティーヌ、フレンチトースト、ガレットなど、バリエーションは毎日少しずつ変化します。オーナーシェフの本多伸也さんにお話を伺いました。

「お客様は地域の方がほとんどですから、毎日来店されても飽きないように日替わりでラインアップを充実させています。中でも人気は、具材をたっぷりはさんだサンドイッチ。定番のたまごサンドに加えて、もう1種類は毎日違うメニューが登場します」(オーナーシェフの本多伸也さん)。

「ツナサンド」360円(税込)

サンドを担当するのはマネージャーを務める美希さんで、シェフと相談しながら1週間のメニューを考えていくそう。

「サンドに使うパンは、もっちりした食感の食パン生地を使ったロールパンとバゲットの2種類です。バゲットは、手ごねバゲットの生地をサンド専用に1個分のサイズにつくっています。その分、手間はかかりますが、具材をはさんだ時の見た目もきれいで、食べやすくなる、というシェフのこだわりです。平日は女性のお客様が多いので、野菜を多めに使ったヘルシーなサンド、休日は男性も増えるので、唐揚げなどボリューム感のあるものを出しています。それぞれのパンに合う具材を考え、こだわりすぎないけれど、ちょっと珍しさもあり、どんな味なんだろう? 食べてみたい! と思ってもらえるようなサンドを考えています」(美希さん)。

味わいにアクセントを加えているのが、鎌倉の農園がつくる無農薬野菜の“ベジ・バーニャ”のソース。新作の「ツナサンド」は、角切りのオリーブとパプリカをツナと合わせて、マヨネーズ、クリームチーズに“カリフラワーのベジ・バーニャ”を加えて奥行きのある味わいに。
「桃トマトソースのキャロットラペ」は、ニンジンをレモン汁と“トマトのベジ・バーニャ”、桃ソースでジューシーに仕上げたラぺとチキンをサンド。女子が大好きな素材の組み合わせに、ビタミンカラーの彩りも魅力です。
週末のがっつり系は、「甘酢唐揚げサンド」や「豚肉と鶏レバーのパテドカンパーニュ」などが登場します。毎日の日替わりをSNSでお知らせして、できたてのサンド画像が食欲を刺激します。

「豚肉と鶏レバーのパテドカンパーニュ」350円(税込)
本日限定タルティーヌの「枝豆ベーコン」320円(税込)

同店のバゲットとカンパーニュは、より自然な状態で生地に極力負担をかけない製法でつくっています。クラストはパリッと薄めで歯切れがよく、クラムはしっとり、もっちり。小麦やライ麦が強く香り、旨味の濃さが特長です。
取材時には、このバゲットとカンパーニュを使った本日限定のタルティーヌ「十勝牛乳とチキングラタン」と「枝豆ベーコン」が並んでいました。
またフレンチトーストは、プレーン、レーズン、チョコレートの3種類を日替わりで。食パン1枚そのままのサイズで特製アパレイユをたっぷり含ませて焼き上げています。

フェア限定のパンが満載のイベントも好評

まるでケーキのような「モンブランデニッシュ」600円(税込)

同店では、夏や秋のパン祭りをはじめ、周年記念日や夏季・年末年始の休業前などに、限定パンをたくさん用意したフェアを実施しています。
たとえば、1周年祭は2日間にわたって開催され、17種類の限定パンが登場。定番商品をベースにして、合わせる副素材を変えたものなどもありますが、フェア用に新しく開発したアイテムは、「焙煎大麦と亜麻仁」「五穀バゲット」「ティラミスダマンド」「モンブランデニッシュ」「HAPPY NUTSのピーナッツコロネ」「生ハムとカマンベールサンド」など。
こうしたフェアは、「シェフ自身がつくりたいパンをつくる日」として始めたのだそう。

「通常の営業では、価格も手ごろな菓子パン・調理パン・パンドミ・バゲットなどがメインで売れます。ほかにも、もっといろいろな種類のハード系や、より上質で高コストな素材を使ったもの、手間暇がかかりすぎるものなど、つくりたいけれど毎日つくるのは厳しい、というものがたくさんあります。そこで、パン祭りなどイベントを開催して、たくさんの方にお越しいただき、ちょっと高級感のあるものも含めて、量も種類もいつもより増やしてご用意しよう、と考えたのです」(伸也さん)。

たとえば「五穀バゲット」は、業者さんから新しく紹介された雑穀を使ったアイテム。小麦粉も国産の厳選されたものを使用しました。また「ライ麦2倍のカンパーニュ」は、普段はライ麦20%のところを「もっとライ麦の風味が強いのが好き」というお客様がいらしたことから、フェアのときだけ40%に増量しました。「熟成カマンベールと生ハムサンド」は、フェアで大好評につき、日替わりサンドのレギュラーに加わりました。

「考え始めると、あれもこれも出したくなって……。特にフェアが2日間続くときは、当日分をつくりながら、翌日分の仕込みも重なってよりハードになり、こんなにやるんじゃなかった!と思わず後悔することも(笑)。でも、たくさんのお客様に喜んでいただけて、また次のフェアでもやっぱりいろいろつくってしまいます」(伸也さん)。

「五穀バゲット」420円 (税込)
「熟成カマンベールと生ハムサンド」450円(税込)

同店では、焼き菓子にも力を入れて、日々10種類くらいを揃えています。ギフトボックスはS/M/Lの3種類を用意。当日のラインアップの中からおすすめを詰め合わせたセットにして販売しています。もちろん、お客様がお好きなものをお好きな個数選ぶこともできますが、あらかじめバランスよくセットにしておくことで、迷わずさっと購入いただけます。お店のロゴマークのステッカーもかわいらしく、ちょっとした手土産にも好評です。
取材時にはちょうどバレンタインの季節に向けたハート型のガトーショコラができ上がったところ。このほかに「ストロベリーとチョコレートのシュトーレン」も登場しました。

「バレンタインのあとは、ホワイトデー、桜、抹茶とよもぎ……と、月に1回くらいのこまめなペースでテーマを変えて、焼き菓子もパンも特別感のある商品を出していきたいです。フェアの機会に、新しいアイテムをつくってみたりもできますし、お客様には、“今日だけ、この季節だけ”という特別感を楽しんでいただけます。限定商品にはそうしたよさががあると思います」(伸也さん)。

おすすめ焼き菓子セットはS/M/Lの3サイズを用意
バレンタインシーズンに向けたハート型のガトーショコラ

Comme’N TOKYO(コム・ン トウキョウ)

パンの世界大会で総合優勝を果たした大澤秀一さんが2020年8月にオープン。世界大会に出品したレシピ配合でつくり上げるクロワッサンや自家製酵母のカンパーニュなどのほか、惣菜パンや菓子パンが種類も豊富に揃っています。パンの種類が日によって替わる「本日のクリームパン」をはじめ、あんパン、サンドイッチなど、日替わりや気まぐれで登場するアイテムが多数あります。

Comme’N TOKYO(コム・ン トウキョウ)

住所
東京都世田谷区奥沢7-18-5
電話
非公開
営業時間
7:00~18:00
定休日
なし
九品仏駅から徒歩1分

いろいろなパンでつくる「本日のクリームパン」

手前から時計回りにクルミブレッド、ケーク・ブリオッシュ、
シナモンロールを使った「本日のクリームパン」各486円(税込)
オーナーシェフの大澤秀一さん

同店では、自家製カスタードクリームをいろいろなパンと合わせた「本日のクリームパン」を毎日3~4種類ラインアップ。「はさむパンを替える」という発想が生まれたきかっけをオーナーシェフの大澤秀一さんに伺いました。
「当初は、ブリオッシュ生地で自家製のカスタードを包んで焼き上げる半月形の普通のクリームパンだけをつくっていました。1日につくる量は限られて、売り切れたらおしまい。当店にはお子様連れのお客様も多く、クリームパンがなくてがっかりされることも多かったのです。一方で残ってしまうパンもあり、商品ロスとチャンスのロス、両方が生じていました。そこで、ほかのパンにクリームをはさんでリベイクする、という発想が生まれたのです」(大澤さん)。
サンドイッチなども同様に、パンを1つに決めずに全部のパンを対象にすることで、変化が生まれ、2つのロスの解決にもつながります。

ケーキのようにふんわりした「ケーク・ブリオッシュ」に
クリームがたっぷりの「本日のクリームパン」

取材時の「本日のクリームパン」は「クルミブレッド」「ケーク・ブリオッシュ」「シナモンロール」を使った3種類。どれも間にカスタードクリームをたっぷりはさんで、上にアーモンドクリームやマカロンクリームを塗り、スライスアーモンドを散らして焼き上げています。

大きめのサイズ感でずっしりとした重み。クリームはどれも同量入れてあり、価格も均一でお得感のあるアイテムになっています。

買いたいお客様がいらっしゃるのに商品がないのは、パン屋としては負け。だから、かなり強気にたくさんのパンを揃えている、という大澤さん。閉店時には余るパンもたくさん出ますが、「オープン以来、パンの廃棄はゼロ!」なのだそう。その秘訣は、余ったパンを生地に練り込んで生かす、という手法です。

「以前、パティスリーで働いていた時に実践していた方法で、ロールケーキの端っこや残ったケーキはバターや生クリーム、卵の固まりみたいなもの。そこで、いったん冷凍したものをペースト状に練って、バゲット生地に練り込むと、ケーク風の生地になるのです。グルテンをしっかりつくった生地なら、生地量の1/2くらいのペーストが入ります」(大澤さん)。
こうして生まれたアイテムが「ケーク・ブリオッシュ」です。パンとケーキのハイブリッド的なおいしさとビジュアルの人気商品で、本日のクリームパンにも使用されています。トッピングにたくさんのナッツをのせて焼きあげていますが、カットするときにこぼれ落ちたナッツなども、次のケーク・ブリオッシュの素材として無駄なく再利用しています。

定番の「クリームパン」324円(税込)
「ケーク・ブリオッシュ」378 円(税込)

サンドイッチやあんパンもいろいろなパンで楽しめる「気まぐれ」アイテム

売り場のPOPには、クリームパン以外にも「気まぐれ」というフレーズがたびたび登場しています。サンドイッチのほか、クロックムッシュなどのリベイク系、「気まぐれあんパン」は、パン生地もあんこも気まぐれでいろいろなものが登場します。取材時はコンプレ生地の小豆あん、ケーク生地のこしあんがありました。
人気のサンドイッチは、その日によって違うパンにバターをたっぷり塗って、イタリア産プロシュートをはさんだ「生ハムとカマンベール」、メツゲライ・クスダのジャンボン(ハム)をたっぷりはさんだ「気まぐれジャンボンブール」などがあります。

「気まぐれジャンボンブール」各734円 (税込)
「生ハムとカマンベール」各734円 (税込)

「気まぐれ、日替わりはどんどんやったほうがいい。アイデアは、いろいろなきっかけから生まれます」(大澤さん)。
同店では、テイクアウトのコーヒーにも力を入れています。アイスコーヒー用にドリップして余ったものや抽出後のコーヒー粉はバターやきび糖を入れて炊き上げて「シュトレン珈琲」に使用。挽いたコーヒー豆の香りと食感が、ちょうどカカオニブのような感じに生かされました。

「クリスマスシーズンのシュトレンがとても好評だったので、買い求めやすい小さいサイズにつくった『プティトゥ』をシリーズ化しました。1月下旬からはバレンタインに向けたチョコ、そのあとはホワイトチョコといちご、夏はパッションフルーツと、時季ごとの『プティトゥ』が登場します」(大澤さん)。

お客様からのおいしかった!という反応や、こういうパンが食べたいという要望が新商品につながっていきます。また、若いスタッフが多い同店では、新商品を「みんなで1つ考えよう」という活動も定期的に行っています。スタッフたちの自由な発想を見守りつつ、最終的に原価が高すぎたり、華やかなケーキ寄りになったときなどは、シェフが修正をかけて売れる商品にしていくそう。

「気まぐれあんパン」各270円(税込)
多彩なブレッドやハード系から気まぐれアイテムが生まれます

「業者さんから在庫が余っているという話を聞くと、とりあえず仕入れ、そこからどういうアイテムをつくろうか?と考えていきます。コンテストに出るスタッフが練習でつくった大量のバゲットは、まかない用のフレンチトーストに。これが大好評だったため商品化しました。当のスタッフの名前をとって『ももちゃんのフレンチトースト』です」(大澤さん)。
一方、仕込みで失敗した生地も、どうにかして生かす方法を考えて、その日限定の全く違うアイテムに生まれ変わることもあるそう。

プチギフトにもぴったりの 「プティトゥ」980円(税込)

品切れにはしたくない、でもパンは廃棄しない、そんな二律背反の突破口ともいえるのが、柔軟な発想から生まれる気まぐれや本日限定アイテムの数々です。

「お客様には、来るたびに違うものに出会い、新しい発見を楽しんでいただけたらと思います。その一方で、〇〇サンドは、あのパンを使ったのがおいしかった!とご要望があれば、できる範囲で対応させていただいています。お客様がその日の気分でいろいろなパンの中から選べるように、たくさんの人にうちのパンで幸せな気持ちになってもらえるように、真摯に取り組んでいきたいです」(大澤さん)

「日替わり」や「限定」には、お店それぞれのパンに対する熱い想いが込められています。今の気分にぴったりの限定パンを探しに各店を訪れてみてはいかがでしょうか。

※店舗情報及び商品価格は取材時点(2022年02月)のものです

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