パンのテーブル パンのテーブル

おいしさと、健康志向にも応えるパンづくり

全粒粉やライ麦、雑穀、おからなどの、健康素材をパンづくりに積極的に取り入れているベーカリーを取材しました。

Boulangerie Coton (ブーランジュリー コトン)

飛騨高山の名店「トランブルー」で9年半修業した綿貫享シェフが、2017年に自身の故郷に店をオープン。「1つ1つを丁寧に」というトランブルー譲りの姿勢で約70種類のパンをつくりあげています。全粒粉やライ麦粉を使ったパンペイザンなどが、曜日限定で登場します。

Boulangerie Coton(ブーランジュリー コトン)

住所
埼玉県富士見市鶴瀬東1-9-29 メゾンベルクール102
電話
049-293-9498
営業時間
9:00~19:00
定休日
日曜、月曜
鶴瀬駅から徒歩1分

ライ麦や全粒粉で香りやうまみもプラス

全粒粉、ライ麦入りの「パンペイザンシリーズ」。丸い大きいパンが「パンペイザン」560円/ハーフ290円(各税込)
オーナーシェフの綿貫享さん

同店では、通常の小麦粉より食物繊維が豊富で、食後の血糖値上昇が穏やかになる等の特長があるとされる全粒粉やライ麦粉を、積極的にパンづくりに取り入れています。金曜限定で登場するパンペイザンシリーズは、小麦全粒粉とライ麦粉を使用した素朴な食事パンです。オーナーシェフの綿貫享さんにお話を伺いました。

「全粒粉やライ麦粉は、もちろん健康によい素材ということもありますし、全粒粉、ライ麦ならではの香りや味をパンの特徴に生かせます。当店では、カレーパンとミルクスティックの生地にも、全粒粉を少量加えているのですが、知らずに食べている人もいるかもしれません。『全粒粉』を強調しすぎてしまうと、なじみのないお客様はちょっと警戒?されるのか、なかなか売れないという経験もありました。全粒粉やライ麦を入れることでパンの香りや食感はよくなりますし、もっと気軽に食べてもらいたいと思うのです」(綿貫さん)。

「揚げカレーパン」320円(税込)
「ミルクスティック」220円(税込)

パンペイザンシリーズは3種類あり、基本となるのが丸く大きく焼いた素朴な食事パンの「パンペイザン」です。
「生地の仕込みは『ルヴァンドパート』製法といって、自家製ルヴァン種とパートフェルメンテ(すでに発酵させてある生地)を使用しています。種は一晩熟成させて、熟成と酸味の具合をほどよく調整し、ミキシングはあまりせず、パンチで生地をつくっていきます。こうすることで、全粒粉やライ麦粉の入った生地でも、ボリュームを出すことができ、独特な歯切れやもっちりした食感が生まれます」(綿貫さん)。

「パンペイザンオノア」490円(税込)
「ペイザンヌ」270円(税込)

パンペイザンの生地に、厳選したクルミを30%たっぷり配合したのが「パンペイザンオノア」。「ペイザンヌ」は、カリカリにキャラメリゼしたアーモンドと、クルミ入りです。
「パンペイザンのシリーズは、なるべく大きい塊のまま、表面を焦がしすぎないようにリベイクし、バターをつけて食べるのがおすすめです。最初はナッツが入ったものから食べてみて、次はパンペイザンを使ったサンドウィッチ、さらにチーズやワインと一緒にパンそのものを楽しむ……、という感じで、パンペイザンの魅力にどんどんハマっていってほしいです」と綿貫さん。

栄養価の高い副素材を取り入れて、パンの魅力を高める

「フリュイ クランベリー、クリームチーズ、クルミ」
1260円/ハーフ640円 (各税込)

「トランブルー」の味をそのまま再現している、と人気の「クロワッサン」とともに、高い評価を得ているのが「Tバゲット」です。とはいえ、地元ではハード系のパンはなかなか売れ行きが伸びていかないそう。そこで、生まれたのが「フリュイ」のシリーズです。バゲット生地にナッツやドライフルーツを混ぜて、曜日ごとに違うアイテムが登場します。
「ナッツやドライフルーツも、おいしくて栄養価が高く、抗酸化物質も含まれています。そうした副素材を入れて、手に取りやすく、食べやすくすることで、バゲット生地のおいしさも知っていただけたらと思うのです」(綿貫さん)。

曜日限定で種類を変えることで、バリエーションが広がり、次は〇曜日に来てみよう!とおっしゃる方、火曜のフリュイと金曜のフリュイが好きだから、と週に2回来てくれるお客様もいらっしゃるそう。

また、菓子パンや惣菜パンに使う素材選びにも、「健康」という切り口を生かしています。たとえば、夏から秋に旬を迎える食用のホオズキ。ビタミンB群をはじめ各種ビタミンを豊富に含み、スーパーフードの1つとされています。同店では、季節限定でフレッシュのホオズキを使ったアイテムが登場。がく付きの実をそのままのせた「ホオズキのデニッシュ」は、美しくデザインされたケーキのようなビジュアルです。初めてホオズキを食べて、そのおいしさに驚かれるお客様も多いそう。「五色米入りリュスティックサンド」は、古代米の赤米、黒米、緑米などを練り込んだリュスティックに、パストラミとホオズキ、カマンベールをサンドしています。

「せっかく健康によい素材を使っても、本当においしいと思えるものでなければ、あまり意味がないのでは? とも思います。その両立を目指して、いろいろな素材のことを勉強して、新しいものをつくっていきたいです」(綿貫さん)。

「ホオズキのデニッシュ」380円 (税込)※現在は終売
「五色米のリュスティックサンド」500円(税込)※現在は終売

豆富パン

2023年4月オープン。パンに使っている豆腐・豆乳・おからは、恵比寿にある系列店「豆富食堂」(豆腐工房と食堂を併設した豆腐店)にて当日つくられたもの。パンのほかに、店内の冷蔵ケースでは豆腐やお揚げなども販売しています。

豆富パン

住所
東京都品川区西五反田2-25-4
電話
03-6420-0909
営業時間
11:00~16:00 *売り切れ次第終了
定休日
不定休 *公式Instagramで確認を
五反田駅から徒歩4分

ヘルシーの代名詞、豆腐・豆乳・おからを使ったパンをラインアップ

パン生地に豆乳や焙煎おからを配合したやさしい味わいが特長です
パン職人の上原健太郎さん

大豆、豆腐、豆乳、おからは、良質な植物性たんぱく質が豊富で、低脂肪・低カロリー、食後血糖値の上昇が緩やかな低GI食品です。また、大豆から豆乳を絞った後に残るおからは、食物繊維も豊富。 豆腐専門店がベーカリーを手がけるようになったきっかけや狙いについて、パン職人の上原健太郎さんにお話を伺いました。

「豆腐は、日本に昔からある食文化で健康素材でもあります。工房でつくりたての豆腐や豆腐料理をその場で食べることができる、というのが「豆富食堂」のコンセプトです。国産大豆ミヤギシロメを使用した自家製の豆腐を軸に、豆腐の可能性をさらに広げていきたい! と考えて誕生したのが『豆富パン』です。豆腐をつくる過程で大量にできるおからを活用した、豆腐屋ならではのパンづくりをめざしています」。

お客様は、パンのほかに豆腐や揚げなども購入できますし、豆富食堂で食事がてらにパンを買うこともできるという、「パンと豆腐」の新しいコラボレーションができあがりました。

すべてのアイテムに使われているのが食パンの生地で、小麦粉、焙煎したおから、きび砂糖、塩、豆乳、豆乳バターを使用しています。焼き上がったパンには、ちょうど全粒粉のパンのような茶色い粒々が見えますが、これが焙煎おからです。ほどよい細かさに粉砕したものを混ぜています。

「焙煎することで芳ばしさが出ますし、吸水がよいので、水分量を多めにして、しっとり感が生まれます。難しかったのは、おからをたくさん入れるとパンがどうしてもふくらみにくくなること。いろいろな配合率を試して、小麦粉の5%としました」(上原さん)。

ふっくらとやわらかで、芳ばしいけれどクセはなく、豆乳を使用したやさしい味わいです。この食パン生地から、小型の食事パン、おやつ系、惣菜系とさまざまなバリエーションを展開しています。

「食パン」500円(税込)
パン生地には、香ばしく焙煎したおからを使用

「シリアルパン」は、雑穀をプラスした小型の食事パンです。焙煎したオーツ麦、ヒマワリの種、ゴマ、アマニを生地に練り込み、トッピングにもたっぷりあしらいました。ビタミンやミネラルなど栄養価の高い雑穀それぞれの香りや味わい、粒々の食感を楽しめます。

食パン生地でつくるシンプルな丸パンに、豆乳バターとホクホクに炊き上げた自家製の粒あんとをはさんだ「あんバター」は、オープン以来の人気商品ですが、夏の間はお休みに。代わって登場しているのが豆乳クリームと自家製あんこを包んで焼き上げた「豆乳あんパン」です。わずかに塩気のある豆乳クリームとあんこが、しっとりしたパンによく合います。

「シリアルパン」180円(税込)
「味噌パン」270円(税込)
「醤油豆チーズ」300円(税込)

「味噌パン」は、味噌を練り込んだクッキー生地を丸パンにのせて焼き上げた、甘じょっぱさがクセになるメロンパン風の菓子パン。食パン生地に、豆富食堂の人気メニュー「醤油豆」と角切りチーズを混ぜ、パルメザンチーズをかけて焼き上げたのが「醤油豆チーズ」です。ふっくら戻した大豆をじっくりと焼き込んだ「醤油豆」は、パン生地に混ぜるとナッツのような食感とコクをもたらします。
発酵食品同士、醤油や味噌とパン、チーズの相性は抜群で、ほんのりと和のテイストも感じられます。

惣菜パンの具材にも、大豆製品を活用

「豆富カレーパン」320円(税込)

カレーパン、クロックムッシュなど定番の惣菜パンには、お豆腐屋さんならではのユニークなアイテムも。
「豆富カレーパン」は、自家製の醤油豆を合わせたひき肉カレーの真ん中に、カレーで煮込んだ大きな角切りの豆腐! チーズをトッピングして焼き上げた、焼きカレーパンです。

新商品の「大豆のクロックムッシュ」は、豆富食堂で人気の三角形の一口お揚げを食パンにはさみ、豆乳でつくったベシャメルソースとチーズを合わせて焼き上げています。

「クロックムッシュの具材は、当初、醤油をつけて焼いた油揚げだけでつくってみましたが、今一つ物足りなさを感じたため、お揚げの中にそぼろ風の大豆ミートを詰め、コクを加えました。パンに豆腐や油揚げを合わせるなんて、考えたこともなかったですが、つくってみると意外なほどにしっくりと味がまとまりました」と上原さん。

「大豆のチリコンカン」も新商品。一般的なレシピでは、レンズ豆やキドニービーンズを使うところを大豆に替え、トマトベースでひき肉、タマネギと煮込み、丸パンに詰めて焼いています。

「今後はおからや豆腐を生地に練り込んで、豆腐の味がしっかりわかるようなドーナツなどもラインアップに加えていきたいです。工房で毎日つくられる新鮮な素材を使った当店のパンを、食事やおやつに、おいしく食べていただけたらと思っています」(上原さん)。

「大豆のクロックムッシュ」340円(税込)
「大豆のチリコンカン」320円(税込)

Bartizan Bread Factory(バルティザン ブレッドファクトリー)

系列レストランで提供するパンを自分たちでつくる、という取り組みから生まれた、ハード系の食事パンがメインのベーカリー。同店を代表するパン「バルティザンサワードウ」はじめ、素朴で滋味深いパンが揃っています。テイクアウトのほか、店内で「バルティザンサワードウ」のスライスや、ホットサンドイッチをスープやドリンクと一緒にイートインもできます。

Bartizan Bread Factory(バルティザン ブレッドファクトリー)

住所
東京都港区南青山7-11-4 H.T南青山ビルディングⅢ 1F
電話
050-5444-9107
営業時間
8:00~20:00 ※パン売り切れ次第営業終了
定休日
水曜
広尾駅から徒歩13分、表参道駅から徒歩15分

「しっかり食べて健康に」がコンセプトの食事パン

小麦の香りが店いっぱいに広がります
店長の久保さん(左)と工場長の小磯萌さん

ベーカリー誕生のきっかけやコンセプトについて、工場長の小磯萌さんにお話をお聞きしました。

「当社は、ロサンゼルスでもレストランを展開しています。現地では “しっかり食べて健康になる”というスタンスの人が圧倒的多数。人気が高いのが『サンフランシスコサワードウ』に代表される発酵種を使った食事パンです。日本では、どちらかというとやわらかくて甘みのあるパンが好まれますが、食事と合わせておいしいパンをつくり、食べてもっと健康になってもらおうと立ち上げたのがこのベーカリーです。自家製酵母を育てるところからはじめて、『バルティザンサワードウ』をつくり上げました」。

「サワードウ」とは、一般に小麦粉やライ麦粉などの粉と水だけを材料に自然に発酵させた酵母種です。これを使うことにより、発酵過程でパン酵母以外にも、乳酸菌など自然の中に存在するさまざまな微生物の働きで、うま味や複雑な味わいが醸し出され、より消化吸収しやすい状態になります。

「バルティザンサワードウ」は、この酵母種と小麦粉、水、少量の塩だけでつくるカンパーニュタイプの食事パンです。色濃くパリッと焼き上げたクラストに、クラムはしっとりもちもちとしてナチュラルな色合い。長時間発酵で小麦が本来持つ甘みやうまみが引き出され、複雑な味わいの中にほのかな酸味が感じられます。

「当初は、本場のサワードウブレッドと同様に、酸味をはっきりと感じられる仕上がりにしていましたが、発酵を調整することで、より日本人の好みに合うように、ごく軽い酸味に抑えて食べやすくしています」(小磯さん)。

「バルティザン サワードウ」1/1 size 1,566円(税込)、1/2 size 788円(各税込)
「サワードウチャバタ」194円(税込)

「『バルティザンサワードウ』は、シンプルにオリーブオイルをつけて食べると本当においしいです。イートインでは、お試し的に少量から気軽に食べていただけます。また、『チャバタ』は、『バルティザンサワードウ』と同じ素材を使っていますが、一晩寝かせていないため、酸味はさらに少なめ。イートインメニューのホットサンドにも『チャバタ』を使っています」(小磯さん)。

自家製発酵種を活用し、他にもいろいろなアイテムを展開しています。チャイの茶葉を練り込んだ「アップル&チャイ」や、ブラックココアの黒にクルミとクランベリーが映える「チョコ&ウォルナッツ」などは、甘さはごく控えめで、食事パンのバリエーションとしてもおすすめ。食卓に素敵なアクセントを添えてくれます。

「アップル&チャイ」648円(税込)
「チョコ&ウォルナッツ」 1/1size 972円、1/2 507円(税込)

全粒粉80%、ライ麦粉100%のパンや、米粉&オートミールの焼き菓子も

「全粒粉サワードウ」 1/1size 788円、1/2size 410円(各税込)

同店のパンづくりの要となる自家製酵母は小麦粉から起こしたものと、ライ麦粉から起こしたものの2種類。どちらも、お店のオープンに向けて育てた種を、毎日水と粉を継ぎ足して大切に育てています。
「バルティザンサワードウ」と同じ酵母種を使い、石臼挽きの全粒粉を80%配合したのが「全粒粉サワードウ」です。

「全粒粉は小麦粉に比べてグルテンの形成が少ないため、パンにするとやや目が詰まり、独特の食感になります。胚芽にビタミン、ミネラルを多く含み、特にビタミンB1は、糖の分解を促す働きがあります。外国の方も多く住んでいる南青山という土地柄、全粒粉、ライ麦、雑穀などを使ったパンを好んで購入されるお客様も多いです」(小磯さん)。

ライ麦粉の酵母を使ったアイテムが「グレイン」です。粉はライ麦粉が100%、5種類の雑穀をブレンドし、上にオートミールをトッピングした低GIのブレッドです。ライ麦粉の生地は保水性が高くグルテンを形成しないので、型に入れて焼き上げます。

「ライ麦ならではの香りと味わいを楽しめ、薄くスライスしてスモークサーモンやクリームチーズなどと合わせると鉄板のおいしさです。いろいろな料理にも合い、お向かいのフレンチのお店にも卸しています」(小磯さん)。

「グレイン」 1/1size 1,198円、1/2 604円(各税込)
パンづくりの要となる2種類の自家製酵母種。 右は「グレイン」に使用するライ麦の酵母種
米粉を使った焼き菓子なども

また、同店近くには日赤病院があります。血糖値を気にされて、砂糖不使用または控えめのパンや、低GIのパンを求めて来店されるお客様も多いそう。
「米粉とチョコ」は、オートミールと米粉、卵、サラダ油でつくった焼き菓子です。生地に砂糖は使わずに、チョコチップの甘みを生かし、腹持ちもよいと人気です。

「おいしく食べて健康になる、というテーマとともに、いろいろな種類からチョイスしていただけるように、『あんバター』や『めんたいバゲット』などもラインアップに加えています。当店のスタッフにはパティシエやレストランシェフの経験者、留学生もいますので、いろいろな国の料理やお菓子の要素も取り入れるなどで、バリエーションを増やしていきたいです。食べることを楽しみながら、ご自身の現在から未来に向けての健康のために当店のパンを役立てていただけたら、と思います」(小磯さん)。

健康のためにも積極的にとりたい全粒粉やライ麦、雑穀、豆乳やおから、ナッツやフルーツなどの食材。今回取材した各店では、それぞれに工夫をこらし、これらの素材を使った魅力的なアイテムを揃えています。ぜひ訪れてみてはいかがでしょうか。

※店舗情報及び商品価格は取材時点(2023年09月)のものです

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