竹谷さんだから聞けるパン職人の理想と挑戦-対談vol.31 独学で歩み続けたパンの道~自家製酵母パンに想いを込めて~
チクテベーカリー 北村 千里さん

前編 後編

人気のマフィンが自家製酵母パンを知ってもらうきっかけに













竹谷
 美大卒業後、6年間の修業を経て「Cicoute Bakery」をオープンしたんですね。
北村
 最初は実家の1階部分を借りて、卸しと配送を専門に「Cicoute Bakery」を開業しました。2002年に2坪の店舗もオープンしました。
竹谷
 そのような小規模店舗でありながら、評判はとても良かったですよね。
北村
 お客様が来ていただけるきっかけとなったのが「CICOUTE CAFE」で提供していた「直火焼きマフィン」です。銅板の上で50分ほどかけてじっくりと焼き上げるマフィンなのですが、これが有名になりベーカリーにもお客様が来ていただけるようになりました。そのため自家製酵母のパンはマフィンのおまけのように後から買っていただけるようになった感じでしょうか。
竹谷
 「直火焼きマフィン」というのは初めて聞きましたね。そのアイテムはどのようなアイディアから誕生したんですか?
北村
 昔、友人と行っていたカフェで提供していた「直火焼きマフィン」のおいしさに感動して、どうやってつくるのか色々調べていたら、偶然レシピを掲載している本を友人が発見しました。その味を再現したのがきっかけで誕生した商品ですね。認知されるきっかけになればいいと思い始めたアイテムなので、今でも販売を続けています。
竹谷
 ぜひ食べてみたいですね。
北村
 しかし、自家製酵母のパンをつくりたいと思ってベーカリーを始めたので「直火焼きマフィン」にばかり頼らず、パンの開発にも力を入れていきました。
竹谷
 お話を聞いていると、ほとんど自分自身で工夫して、独学でここまで来たといっても過言ではないですね。
北村
 試行錯誤を今でも続けていますよ。そのため竹谷先生の勉強会はとてもありがたいです。また「新しい製パン基礎知識」も日々読み直しながら勉強を続けています。この環境でできる最大限おいしいパンをつくれるように、季節の温度変化などで調整も入れながら頑張っています。
竹谷
 一番長いスタッフさんは勤続年数何年ほどですか?また独立されたスタッフさんはいらっしゃいますか?
北村
 勤続年数は平均で3年間くらいでしょうか。女性スタッフが多いのもあると思いますが、そのくらいになるとパン職人を続けるのか、別の道に進むのかと考える時期に入るようですね。ここ数年で独立開業したスタッフが3名、合わせると5名ほどいますね。みんなそれぞれ頑張っているようで嬉しいです。
竹谷
 スタッフ教育はどのようなことに気をつけていますか?
北村
 やはり女性が多いので、それぞれのタイプを見極めながら仕事の振り方などを考えています。どんどん仕事を振って欲しいタイプ、そうではなくゆっくり丁寧に教えていく方が良いタイプなど、人によってリズムが違うのでそのあたりは気をつけて教育するようにしています。
竹谷
 北村さん自身は毎日どのくらい働かれているんですか?
北村
 午前3時から午後5時までに途中何度か休憩を入れて、午後には、15分の昼寝を挟んでいます。あまり無理のない働き方をするように心がけています。
竹谷
 夏休みなど長期休みはありますか?
北村
 夏休みは14日ほど(8月10日から14日間)とります。休み中もスタッフ交代で種つぎをしますね。4種類の発酵種が有るので、いい状態を保つためにはやはり管理は欠かせないのです。
竹谷
 お総菜系の販売も行っていらっしゃいますね。お料理はどちらで学ばれたんですか?
北村
 お料理も独学ですね。自宅で本を見ながら試作をしたり、あとはカフェのアルバイトで学んだことを活かしたり。こちらも試行錯誤ですね。

日々の食事に欠かせない食事パンをつくりたい





竹谷
 イートインも行っていますが、とてもお値段がリーズナブルですね。
北村
 ドリンク類はなるべく安く提供しています。それをきっかけにパンのおいしさに気がついていただけたらと思っています。初めて来ていただいた人にも気軽に立ち寄って欲しいので。
竹谷
 席がベンチというのも回転が良くなりそうな仕組みですね。
北村
 はい。お客様自身が「空きますよ」と声を掛け合いながら、席を回していただけるのでとても助かっています。
竹谷
 お店の雰囲気もとてもいいですね。北村さん自身の雰囲気とマッチしていて、温かさを感じます。イベントなども行っていますよね?
北村
 はい。地域のみなさまに感謝、という意味も込めて知り合いの方にマルシェのようにお店の前に出店してもらう「チクテマルシェ」年に3~4回ほど行っています。
竹谷
 今後はどのような展開を目指していますか?
北村
 ゆくゆくはアイテム数をもっと絞り、材料もシンプルにしていきたいと思っています。このような経営をされている広島のベーカリーに伺ってみたりもして、色々と勉強させていただきました。粉と塩と水のみならば、オーガニックなどの粉を使用しても価格を随分抑えられるのが魅力ですね。いつか実現できたらと思っています。
竹谷
 パン食やパン文化を広めるためにどのようなことが大切だと思いますか?
北村
 お店でつくっているパンは、基本的には食事パンです。自家製酵母でつくるパンは日持ちもします。毎日ではなくても、日々の食卓に並ぶパンを週に何度か買いに来ていただけるお店であればいいと思っています。お米に変わることはないと思いますが、食事としてのパンは認知されてきていると思います。お子様から年配のお客様まで幅広い世代の食を預かる身として、安心安全な食を提供できるように心がけています。
竹谷
 本日は貴重なお話をありがとうございました。

プロフィール

【北村 千里さんプロフィール】
美術大学卒業後に、パン酵母と自家製酵母でのパンづくりを修行し2000年11月に自宅1階で卸と個人配送のパン工房を開業、2002年2坪の店舗もオープン。2013年より東京・八王子へ移転し現在に至る。

対談場所

営業時間:10:30~18:00 定休日:月曜・火曜

京王相模原線南大沢駅から緑豊かな公園を歩き見えてくるのが『Cicoute Bakery』。鳥のさえずりが心地よく響く自然に囲まれた立地でありながら、お店にはお客様が次々とやってきます。2000年11月開業以来のこだわりは、自家製酵母を使用し、粉と塩と水でゆっくりと発酵させたパンを販売すること。丁寧に焼き上げられるパンはもちろん、ポイントカードや定休日を知らせるショップカード、そして包装紙に至るまで手づくり感の伝わる温もりも魅力です。

前編 後編

対談を終えて

竹谷先生はパンを始めた時から雲の上にいるような方でした。
初めてお会いしたときもあたたかく素敵なお人柄でパンのお話もとても楽しく、今も精力的にご活躍されているお姿に本当に尊敬のまなざしでおります。
独学と感覚のみで来たパンの道ですが、ウェルカー(自店で使用しているオーブン)を通じて竹谷先生はじめたくさんのパン職人の方にお会いできて 多くの学びを得られることに日々感謝しております。今後もゆっくりと長くお店を続けられる形を探しながらパン作りに邁進していきたいと思っております。
竹谷先生、遠くまでありがとうございました。またお会いできますように!

竹谷さん 北村さんとは何度かお会いしているが、お店に伺うのは初めて。さすがに美大出身、お店も厨房もコンクリートの打ちっぱなし、全く他のパン屋さんとは違う空気を漂わせている。毎月お客様にお渡しするカレンダー、毎年変えているシュトレンの包装紙も手づくり。ゆっくり2時間お話を伺いました。帰りの途中、我慢できずにパンを試食、美味しい。その時、気が付いたのは自家製酵母パンのゴールは、市販酵母パンのそれとは違うということ。私はこれまで酵母数の少ない自家製酵母で如何にふっくら、ボリュームのあるパンを焼くかということに腐心していましたが、そんなことではなく、自家製パン酵母の良さをいかに表現するか。北村氏のパンを食べて当たり前のことに気付かされました。北村さん感謝します!

※店舗情報及び商品価格は掲載時点(2017年9月)のものです

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