竹谷さんだから聞けるパン職人の理想と挑戦-対談 店主の人柄が生み出した地域に愛されるベーカリー~謙虚な姿勢の奥にある熱い想い~ peu frequente (プーフレカンテ) 狩野 義浩さん

前編 後編

人柄が育んでいく人との繋がりが財産に









竹谷
 店先に植えられているバジルがとても元気がよく、いい香りがしていますね。狩野さん自身で育てられているのでしょうか?
狩野
 お店で販売しているピザにも使っているバジルです。週2、3回は来店していただく近所の花屋さんが種からバジルを育てる方法を全て教えてくれました。その方が来店する度に、バジルの様子をみてくれるのでとても元気よく育っています。
竹谷
 本当に地域の人々から愛されていることが伝わってきますね。
狩野
 ありがたいことに、差し入れをいただく機会も多いです。お菓子だけでなく、煮物やおにぎりなど「朝早くて大変だろうから」とお気遣いいただき、必ず日に1度は何かいただいていますね。
竹谷
 このような立地だと近隣住民の方からのクレーム対応なども重要な仕事のひとつとなりそうですが、お話を聞いているとその心配はなさそうですね。
狩野
 開業してから今までクレームはほぼありませんでした。それも近隣の方々に感謝です。特に大家さんにはとてもよくしていただけていて、以前から要望が多かった駐車場についても店から近い場所に整えることができました。遠方からご来店のお客様も利用しやすくなったと思います。
竹谷
 いいスタッフさんにも恵まれていると伺っています。
狩野
 本当に「人」に恵まれていると思います。「魔法のパン」から当店立ち上げなど23年間ずっと一緒に働いてくれている女性社員や10年以上働いてくれているスタッフなど、しっかりとした人が多く本当に助かっています。今年入った新人2名も本当にいい子たちで彼らにも期待しています。
竹谷
 そんな人に恵まれてきた狩野さんですが、働き方についてはどのように考えているのでしょうか?
狩野
 スタッフには本当に感謝していますので、その気持ちをどのよう表していくかが重要だと思いますが、なかなか表せていないのが現状ですね。働き方については、スタッフ自身が望む労働体制をつくっていける現場を提供できるようにしたいと思っています。上からの押しつけで体制を決めるのではなく、意見交換の中でスタッフ一人一人の生活や仕事に対する考え方などを考慮しながら働けるベーカリーにしていけたらと考えています。
竹谷
 東京都八王子市南大沢にある「Cicoute Bakery(チクテベーカリー)」に伺った時にも話題になりましたが、これからは女性が働きやすいベーカリーにしていくことが重要になるでしょう。「ベーカリーは特殊な労働環境である」という考えは捨てて、改革を行っていくべきだと思いますね。
狩野
 本当にその通りだと思います。なるべく話し合いは若いスタッフに任せるようにして、スタッフたちが自分たちで現場を変えていけるように、私はその手助けをする役割を果たして行けたらと思っています。
竹谷
 こうしてじっくりとお話させていただくと、狩野さんの人柄の良さがよく分かります。パンの味ももちろんですが、この謙虚で直向きな姿勢が愛される名店となる最大の魅力なのですね。
狩野
 そのようなお言葉をいただくことができるのも、公私ともにお世話になっている日本のフランスパンの第一人者である仁瓶利夫さんや、「パン工房ボワドオル」の店主・金林達郎さん、「ベッカライ ブロートハイム」の店主・明石克彦さんなど素晴らしい方々と出会えたからこそです。
竹谷
 最初に彼らと出会ったきっかけはなんだったのでしょうか?
狩野
 「東海製パンクラブ」という講習会で明石さんとお会いしたのが最初のきっかけでした。その頃の私は「ビゴの店」でついた自信も手伝い、生意気な部分も多々あったと思います。そんな時に仁瓶さん、金林さん、明石さんに出会い、こんなにいろいろな事を勉強していて、つくったパンを毎日食べて、日々パンと向き合い続けている方々がいることを知りました。その時に「自分は今まで何をしてきたのだろう」と感じ、パンに対する姿勢を改めました。今のパンに対する想いは、この頃に培われたものだと、本当に感謝しています。私は特別な人間ではないので、睡眠を削ってでも努力するくらいしかできないという想いで日々精進しています。
竹谷
 狩野さんの人生を大きく変えた出会いだったのですね。
狩野
 はい。そういった素晴らしい方々から凄い人だと聞いていた竹谷さんとこうしてお話できていることは本当にありがたいことだと思います。

新しい土地での挑戦にパンへの熱い想いをのせて





竹谷
 これまで一店舗主義を貫いてきた狩野さんですが、新たな挑戦を始められると聞きました。
狩野
 三重県いなべ市北勢町に新設される庁舎の隣に整備される「にぎわいの森」という商業ゾーンへ出店させていただけることになりました。オープンは2019年春を予定しています。
竹谷
 今から楽しみですね。新しい店舗ではどのような事に取り組んでいきたいと思っていますか?
狩野
 1階が40坪、倉庫兼休憩室となる2階が20坪。総面積60坪ほどになります。今の店舗では出来なかったことにも挑戦していけるようになると思います。
竹谷
 豊かな自然に囲まれた土地でしょうから、いい食材も多いでしょうね。
狩野
 近くには藤原岳という山があり、そこでは石灰がとれ、フランスの土壌に似ていると聞いています。また湧き水も豊富にあり、寒暖差のある気候から野菜や果物もよく育ちます。このような素晴らしい土地で育った食材を上手に取り入れながら、新しいパンを提供していくのが今から楽しみです。また名古屋の人気フレンチレストラン「フチテイ」さんのシェフの方とも仲良くさせていただいているので、ここから繋がっていく人との出会いも楽しみです。
竹谷
 その地域にあるいいものを探し出して、それを使ったパンをつくれば唯一無二のものが完成するでしょうね。
狩野
 また新店舗は若いスタッフの活躍の場としても考えています。仁瓶さんにもいつも言われていることですが「スタッフやその家族の幸せ」を考えられるようにできればと思っています。先ほどの働き方の話にもありましたが、若いスタッフたちが自分たちでつくり上げていくベーカリー経営を実現していきたいですね。
竹谷
 これからのパン食やパン文化を広めるためにどのようなことが大切だと思いますか?
狩野
 私は先輩たちが築き上げてきた技術を教えていただきましたが、それをまだ昇華できずにいる状態だと思っています。だからこそ、これからもいいパンをつくり続けていくことが私にできる唯一のことです。
竹谷
 新店舗完成も楽しみにしています。本日は貴重なお話をありがとうございました。
プロフィール

【狩野 義浩さんプロフィール】
1963年生まれ。長野県出身。大阪の日本調理師専門学校を卒業後、「ビゴの店」に就職。7年間の修業の後、長野県白馬村のペンションやフランス菓子店を経て「マリエ ル ヒロ」というフランス菓子店に就職。同店が手がけた愛知県東海市の「魔法のぱん」の店長として店舗立ち上げから携わる。2000年に「peu frequente(プーフレカンテ)」をオープン。現在に至る。

対談場所

営業時間:08:00~19:00 定休日:月曜(火曜は不定休)

地下鉄桜通線の瑞穂区運動場西駅から西へ徒歩7分ほど歩くと到着するのが、愛知県名古屋市の人気ベーカリー「peu frequente (プーフレカンテ)」。ふんわりと優しい甘みが口いっぱいに広がる「パン・ド・ミ」(1本460円)をはじめ、注文が入ってからクリームを詰める「クローネ」(130円)などの人気アイテムやどれも丁寧につくられたパンを求め、全国からも多くのファンが訪れます。店主・狩野義浩さんの持つ人柄も手伝い、店内はいつも優しく温かな雰囲気に満たされています。

前編 後編

対談を終えて

狩野 義浩さん

以前からお会いさせていただくことはあったのですが、今回深いお話をさせていただけたことを、感謝しています。お話をさせていただく中で、竹谷さんの広い視野を感じ、パン作りだけでなく、経営や人材育成、業界全体の将来を考える必要性を教えていただきました。先輩方からも常日頃からご指摘をいただいていますが、形として表せていない現状なので、僕の心にとても響くお話でした。この想いを心に留め、悔いのないよう頑張りたいと思います。
貴重な機会を設けていただき、ありがとうございました。

竹谷さん 今回初めて、狩野さんのお店を訪ねました。以前にお会いしていますし、お店のうわさ、その仕事熱心さはいろんな方から伺っていました。でも、お店を見せていただき、従業員の方とお話しさせていただき、初めてその全体像が理解できたように思います。これだけの繁盛店なのにパンが安い、丁寧につくっている、長く働いている従業員が多い、新入社員が生き生きとしている。パンが美味しいだけ、安いだけでは決して繁盛店にはなれないと言いますが、狩野さんのお店には+αとして、人としての素直さ、謙虚さ、人に学ぶ姿勢、そして強い決断力、何よりも働く人全員がお客様に対する奉仕の心を持っているように感じました。来年春には新店が完成とのこと、ますます地域の活性化に貢献し、美味しいパンを提供していただくことを期待しています。

※店舗情報及び商品価格は掲載時点(2018年8月)のものです

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