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人に伝えたくなるようなパン屋に vol.35 トモニパン 浅井 一浩氏

JR成田駅から成田湯川行のバスに乗り「ボンベルタ」で降り徒歩2分。成田ニュータウンのど真ん中に2018年8月、オシャレなベーカリーがオープンした。「トモニパン」である。オーナーシェフの浅井一浩氏は、2015年に開催されたパンの世界大会で総合優勝を果たした実力の持ち主。地元の人々には「本格的なパン屋さんがきてくれた」と親しまれている。

ハード系パンが揃う店

東京の都心から約60km、成田ニュータウン中央のけやき並木の道沿いに「トモニパン」はある。オシャレな総ガラス張りの店舗は外からもさまざまなパンが見える。

ドアを開けると「いらっしゃいませ!」の元気な声が響く。天井が高く開放感あふれる店内には、シェフ自慢のパンがズラリと並ぶ。

ここは東京・葛飾の人気店「ブーランジュリー・オーヴェルニュ」で修業した浅井一浩シェフが、2018年にオープンした店だ。子供でも見やすいやや低めの陳列棚には、自慢のフランスパンや食パン、クロワッサン、菓子パン、惣菜パン、そしてドイツパンまで約70アイテムが揃う。

客層は幅広い。休日の昼近くともなると、小さな子供を連れたファミリー客が次から次へと訪れる。「どれがいい?」と尋ねる父親に「コレッ!」と指さしたのはメロンパンだ。

陳列棚越しに厨房が見渡せ、浅井シェフがパンづくりに励む姿が見える。「トモニフランスが焼き上がりました」の呼びかけと共に、浅井シェフ自らが店頭のカゴに並べると、次々とお客様がトレイに乗せる。

続いて「ナッツフランス」や「ぶどうオレンジ」など、フランスパンのバリエーションが焼き上がる。
隣の銀行と共有とはいえ駐車場を完備しているので、休日はクルマでの来店客が多い。そのためか男性客の多さが目立つ。父親が先頭に立ちトレイ一杯にパンを選ぶ。したがって客単価は高い。ハード系が得意な洗練されたベーカリーとして、地元の人々に重宝されているのがわかる。

世界大会で優勝した実力

ここのイチオシはなんといっても「トモニフランス」220円(税別)だ。ひと口かじるとサックリとしたクラストと、しっとりとみずみずしいもっちりしたクラム、そして奥深い味わいに驚く。

「ハード系をもっと食べやすく」と願う浅井シェフ。加水量は90%と高く、数種の小麦粉をブレンドし、ルヴァン種を使い低温で長時間発酵させ、じっくり旨みを引き出している。最後まで美味しく食べてもらいたいと、生地量200gの食べ切りサイズにした。

この「トモニフランス」の生地を使ったバリエーションもスゴイ。「ナッツフランス」280円(税別)は丁寧にローストしたクルミとアーモンドがたっぷり。その香ばしさともちっとした食感はクセになる。高くめくれたクープは形良く、食べるとサックリと食べやすい。どうやったらこうなるのかと尋ねると「薄くクープを入れ、裏側にオリーブオイルを塗っている」とのこと、なるほどと感心する。

「ぶどうとオレンジ」290円(税別)はそのジューシーな味と香りに驚かされる。おもしろいのは「パインとレモン」300円(税別)だ。トモニフランスの生地にきちんと前処理したドライパイナップルとレモンピールをたっぷりと入れている。その甘酸っぱさと爽やかさは他にない味わいだ。
店頭に並ぶパン一つひとつを見ると、浅井シェフのパンづくりに対する情熱とその技術の高さが伺われる。

ブーランジュリー・オーヴェルニュで修業

元々手先が器用で、モノづくりが好きだったという浅井シェフ。パン屋を目指したのは学生時代にパン屋でアルバイトしたことに始まる。いろいろ任されていくうちにパンづくりが楽しくなり、パン屋もいいなと。
地元愛知県のパン屋数軒で修業をしていくうちに、コンテストに挑戦したいという想いが強くなる。上京を考えていた浅井シェフの目に止まったのが、当時数々のコンテストに出場しては優勝していた東京・葛飾の「ブーランジュリー・オーヴェルニュ」の井上克哉シェフだった。

コンテストにチャレンジしたいからこの店を選んだと正直に話したところ、井上シェフはそのチャレンジ精神を理解し、雇ってくれた。
オーヴェルニュで9年間修業を重ねるが、その間、さまざまなコンテストに出場した。志高く技術力の高い仲間と競う合うことは楽しく、そのネットワークは今でも続いている。

「iba cup」で世界一に

そして2015年にドイツで開催された「iba cup 2015」で日本勢としてはじめて総合優勝を果たすことになる。2人一組で出場するが、その時一緒に代表に選出されたのが、新潟のパン屋「富士屋」の渋谷則俊シェフだった。新潟と東京、距離は遠いが、「よくもここまで」と思うぐらい2人でミーティングを重ねたという。そして毎週、オーヴェルニュが休みになる前日の夜に新潟に入り、何度も話し合い、試作を重ねた。
その努力が実り初優勝という快挙を成し遂げた。「チームワークが大切」と浅井シェフ、本番で力を発揮できたのも2人の心が一つになっていたからといえよう。

トモニパンをオープン

2014年、オーヴェルニュの2号店「ラ・タヴォラ・ディ・オーヴェルニュ」をオープンさせたが、その立ち上げから運営を任された浅井シェフ。パン職人の奥様の昭子さんもこの新店の立ち上げに加わった。その2人が独立して「トモニパン」を開店することとなる。
成田のこの場所を選んだ理由は、「成田ニュータウンの中心地で銀行や大型商業施設、図書館などが近くにあり、集客には絶好の場所だった」と語る。ガラス張りの店舗も天井が高く気に入ったと浅井シェフ。

店名の「トモニパン」はお客様と「共に」「友に」ありたいという想いを込めており、そのメッセージは入口の看板にも掲示している。

丁寧な仕事とアイデア力

奥様の昭子さんもパン職人ということで、今は2人で仕込みからパンづくりを担っている。9時の開店後は浅井シェフがパンづくりを、昭子さんが販売を受け持つ。2人で毎日70アイテムをつくるのだから大変なスケジュールだ。
しかしパンの顔ぶれを見ると一つひとつの完成度の高さに驚く。レーズンやナッツ類などの副材料の前処理も丁寧だ。だからこそ最高のパフォーマンスで美味しさが引き出される。こうした丁寧な仕事こそが世界一を獲得した原点であろう。

感心するのは「ライ麦70」650円(税別)、1/2 325円(税別)などのドイツパンの品揃えである。多忙を極めながらも、毎日焼いているという。「おかげさまで常連客もついてきています」と語る浅井シェフは嬉しそうだ。

「クロワッサン」180円(税別)もこの店の人気商品だ。折る回数をあえて減らしてザクザク感にこだわったというが、その食感は食べていて楽しい。「究極のザクザクチョコクローネ」260円(税別)は棒状のチョコにクロワッサン生地を巻きつけているが、低温で長時間焼くことでパイのようなザクザク感を出したという。ここにしかない浅井シェフのスペシャリテが光る。

「オーブンの使い方を工夫している」と浅井シェフ、水分を保持したまま焼き上げるために、温度や時間を調整、目指す食感、味を創り出すことに余念がない。
「ザクザク」「サックリ」「しっとり」「もちもち」などさまざまな食感を生み出す浅井シェフ。高額なオーブンを導入したのも、焼きにこだわる浅井シェフなればこそといえる。

商品開発のアイデアも「よくぞここまで・・・」と感心するが、その源泉は「iba cup」にあるという。「テーマはサーカスでしたが、ものすごく考えていくつも試作したので引き出しは一杯ある。今でも商品開発に困ったことはない」と。

お客様とトモニありたい

今年8月オープン1周年を迎え、ようやく休みも楽しめるようになった。今は火曜、水曜を休みにしているが、水曜日の朝はサーフィンを楽しむ。クルマで1時間ほどで太平洋に出られるので、さっと楽しんで、帰ってきてから仕込みにかかるという。
「自分はいわゆるパン職人ではありません」と語る浅井シェフ、パンづくりはもとより店づくりや接客も好きだという。厨房からお客様の姿を見るのも、品出しをしながらお客様と会話をするのも楽しいと。

モノづくりが得意な浅井シェフ、お店の陳列棚や店舗前のガーデンもお手製だ。そんな浅井夫妻の人柄や頑張りがお客様に受け入れられているようだ。

「あの店なんかいいよね!と思わず人に伝えたくなるようなパン屋さんを目指す」と浅井シェフ。ナチュラル感たっぷりで居心地のいい店舗も、完成度の高いパンも、ホスピタリティも、『また行きたくなるパン屋さん』として、まさに人に語りたくなる店に仕上がっている。
まだ37歳になったばかりという浅井シェフに今後の夢を伺うと「たくさんありますが・・・」と言いながらも海外進出や都内出店の夢を語ってくれた。具体的なことはまだ何もと言っていたが、夢は広がっているのであろう。明るくてチャレンジ精神旺盛な浅井シェフの次の一手が楽しみだ。

浅井 一浩氏

1982年愛知県生まれ。パン屋でアルバイトをしているうちに面白くなりパン屋の道へ。愛知県のパン屋数店を経て2009年、東京・葛飾の「ブーランジュリー・オーヴェルニュ」に入社、9年間修業を積む。2014年からは2店舗目の「ラ・タヴォラ・ディ・オーヴェルニュ」を立ち上げから任される。2015年にドイツで開催された「iba cup」で総合優勝を果たす。2018年、奥様の昭子さんと「トモニパン」を独立開業、ハード系が美味しいパン屋として親しまれている。

トモニパン

郵便番号
286-0017
住所
千葉県成田市赤坂2-1-15
最寄駅
JR成田駅
アクセス
成田駅徒歩25分、最寄りバス亭より2分
電話
0476-27-1050
営業時間
9:00~18:00
定休日
火曜、水曜

「トモニパン」について詳しくはこちら

※店舗情報及び商品価格は取材時点(2019年10月)のものです

※店舗情報及び商品価格は取材時点(2019年10月)のものです

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