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世界一のワザと心意気を
“美味しい”パンに込めて
vol.38 Comme’N TOKYO(コム・ン トーキョー) 大澤 秀一氏

東京・世田谷区。2020年8月に大井町線の九品仏から徒歩1分のところに、世界一のパン職人の店ができたと評判だ。自由が丘からも徒歩15分の静かな住宅街に、次々とお客様が押し寄せる。コロナ禍をものともせずに、賑わっているのは「Comme’N TOKYO」(以下コム・ン)である。店内には大澤シェフの自慢のパンが揃う。このパンに魅了され、全国からパン好きが訪れる。

世界最高峰のパンに出会える店 

店内に足を踏み入れると、大澤シェフ渾身のパンがずらりと並び、お客を出迎えてくれる。黒を基調とした大人の雰囲気の店内に余計な装飾はない。目に飛び込んでくるのは、「端から端まで全部買いたい!」と思わせるパンの数々だ。その数は100アイテムに及ぶ。
そしてパンがぎっしり並んだ平台の奥には、厨房が見渡せ、大澤シェフ以下スタッフがイキイキと働く姿が見える。その姿を目で追っているだけでワクワクする。
「いらっしゃいませ」「あんぱんが焼き上がりました!」スタッフの元気な声が行き交い、活気のある店内は一体感を醸し出す。ここはまるで劇場のようだ。

対面販売で、一人ひとりに丁寧に応対するスタッフはベテラン揃い。どれを買おうかと迷うお客を、上手に誘導してくれる。
一番人気はクロワッサンA.O.P (300円)。そのサクサクとした食感と力強いバターの香りが食べた人を虜にする。世界大会で優勝したレシピを踏襲。フランス産のバターを使用、生地の折り込み回数を調整、外がサクサク、中がしっとりという絶妙な食感を生み出している。このクロワッサン一つで大澤シェフの技術の高さが伝わってくる。

クリームパンも人気の一品だ。取材した日は5種類のクリームパンが並んだ。中でも「本日のクリームパン」はシナモンロールにクリームを挟み、アーモンドクリームをのせた大澤シェフのスペシャリテだ。まるでケーキのようなリッチな味わいに感動する。

食パン類、バゲット、カンパーニュ、リュスティックなど所せましと並ぶ食事パンも、大澤マジックでさらに食べやすくなっている。一つひとつのパンの完成度が高く「誰が食べても美味しいパン」に仕上がっている。だからこそ老若男女、ファンが押し寄せる。その客層は近所のお年寄りから小さな子供連れ、業界人と思しき人まで幅広い。

日本人にとって美味しいパン

ここにはびっくりするような奇をてらったパンはない。
「お子さんからお年寄りまで、誰が食べても美味しいと言っていただけるパンを目指しています。ハード系も見た目は固そうですが、食べると柔らかいんですよ」と大澤シェフ。日本人が食べて美味しいパンに仕上げているのも大澤流だ。
「店づくりもパンづくりもカッコつけていないのが彼のいいところ」と神戸の「サ・マーシュ」の西川功晃氏は語る。

定番の食パン「パン・ド・ミ」1斤400円は、手で伸ばして成型しているという。しっとり・もっちりした食感と甘すぎない味がリピート客を呼び寄せる。原材料は特別に国産小麦粉だけにこだわっているわけではない。酵母も自家製酵母やイーストなどを自在に組み合わせながら、大澤流の技術で“美味しいパン”を創り出している。

大澤シェフのパン人生

2年に一度フランスで開催されるパンの世界大会「モンディアル・デュ・パン」。2019年の第7回大会で総合優勝を果たしたのが、当時群馬県高崎市の「コム・ン」の大澤シェフである。日本人初の総合優勝と話題になったがその道のりは険しかった。
高崎市のパン屋の息子として生まれた大澤シェフ。子供の頃からパン屋になると決めていたという。18歳から奈良のパン屋で修業、若くして独立するが、1年あまりで商業施設の理由で閉店することに。

「修業し直すなら憧れのサ・マーシュ西川氏のもとで」と決心すると、閉店したその足で、夜行バスに乗り神戸を目指した。「連絡してから訪ねて断られるより直談判してでも入りたかった」と大澤シェフ。晴れて西川氏のもとで修業することになる。
「これまでの経験を忘れてゼロになれ」西川氏の言葉にハッとしたと語る。
「西川シェフはパン生地をまるで赤ちゃんのように丁寧に扱っていました」
ゼロからやり直した大澤シェフ、めきめきとその才能を発揮、2年で卒業、地元に戻り独立の準備をする。なかなかいい物件に巡り合えず、一時期はパンづくりから離れ、とび職についていたという。

パンの世界大会にチャレンジ

そんな大澤シェフを心配し、「モンディアル・デュ・パン」に誘ってくれたのが西川氏だった。日本代表の「フリアンド」の谷口佳典シェフを応援しながら晴れ舞台を見ているだけの自分が悔しかったと大澤シェフ。パン職人としての血が目覚め、「自分があの場に立つ」と決意した。
その後の大澤シェフのチャレンジは壮絶だ。喫茶店の駐車場にあるプレハブを借り、昼間はパン屋として、夜は大会に出るための練習に没頭した。
「閉店後翌日の仕込みをして、21時から練習をスタート、翌日9時までという日もありました。助手を務める久保田遥さんもこの壮絶な練習を共に戦ってくれました。」
大会の種目の中で「飾りパン」があるが、日本人にはなかなか難しい種目だ。第7回のテーマは「スポーツ」だった。考え続けた結果、日本的なスポーツとして「流鏑馬(やぶさめ)」を創ることに決めた。馬にまたがり矢を射る姿をパンで表現するのは難しい。
「最近の飾りパンは造り物になっているけど、せっかくパンの大会だからパンを生かした方がいいよ」との西川氏のアドバイスを考慮、大澤シェフが創り出した「流鏑馬」は圧巻だった。
そして日本大会で1位となり、2019年に開催された第7回の本選に出場することになる。

「優勝」に賭ける

世界15か国から代表選手が終結、腕を競う本番。時間は前日準備の90分と本番の8時間だ。優勝する自信はなかったが、優勝しか考えていなかったと当時を振り返る。2年間大会のことだけを考え練習してきた。その実力を見事に発揮、サンドイッチ部門、飾りパン部門、2人ペアのチームワーク部門で1位を獲得、日本人初の総合優勝に輝いた。

ここまでくるのにどれだけ多くの人に支えてもらったことか、その感謝の気持ちを忘れることはない。
「大澤君の凄さはテクニカル部分だけではない。その誠実さ、人間性のすばらしさです」と師匠の西川氏。もちろん大会の時も応援団長として駆けつけてくれた。

「コム・ン」を東京にオープン

優勝カップを手に帰国した大澤シェフ、12月末までの2か月間、高崎の店で営業を続けた。応援してくれた地元の人々の期待に応えるためだ。
そして2020年8月、東京・世田谷にコム・ンを出店することになる。34坪のこの場所は大澤シェフを応援する業者の方が探してくれたという。
店名の「Comme’N」のCommeはフランス語で「~のように」の意味、Nは西川氏の頭文字という。つまり西川氏のようにという意味の店名だ。
「パン屋としてのチャンスを頂けたのも、大会に出場して優勝できたのも、今、自分があるのは西川師匠のおかげです」と大澤シェフ。感謝を忘れない誠実な人柄が伝わってくる。実際、店のロゴマークとなっている手書きの「Comme’N」は、西川氏が描いてくれたものという。
そして勿論、店内には総合優勝のトロフィーが輝いている。

日本随一のパン職人

「初めてうちの店に来た時からアート的な才能の片りんがあった」と語る西川氏。弟子の活躍がうれしくてたまらないとばかりに声が弾む。
超多忙な店ながら、100アイテムが揃う店内は壮観だ。スタッフが独立するときに役立てばと、教えているうちに増えてしまったと大澤シェフ。これらのアイデアの宝庫となっているのは、2年間大会のために考え続けたレシピの蓄積だ。その膨大な引き出しから取り出しては、アイデアを膨らませる。

食パンをアレンジした「桜と日本酒」は、大会の時に日本らしさをと考えたレシピという。桜あんを練りこみ、日本酒を加えたパンは、しっとりと甘く、ほんのり香る桜の香りがたまらない。何度でも買いたくなる逸品だ。

真夜中2時から現場に入るという大澤シェフ。その動きはノンストップだ。パン作りはもとより、店頭のパンの補給、品出しに余念がない。お店に来てくれたお客の期待に応えたいという強い意志が全身にみなぎっている。
「パンはその人の人間性が現れる」というが、大澤シェフのパンにはその誠実さ、優しさがにじみ出ているようだ。

若いスタッフの成長の場に

今34歳という大澤シェフの当面の目標は、労働時間を調整し2交代制を実現、働きやすい環境をつくることという。スタッフには休憩をとってもらっていますよと言いながら、自分は手を休めることはない。開店前から閉店まで全力投球する姿をスタッフに焼き付けたいと語る。
「あの店パンはいいけどスタッフは忙しすぎてメチャクチャだね。とは言われたくない。パンも私生活も充実しているね、と言われるパン屋にならないと」と気を引き締める。若いスタッフが独立したらその店を巡るのが楽しみと語る。コロナ禍ではあるが、今一番話題の店に行ってみたいという思いも手伝って平日でもお客が途切れることはない。
全身全霊でパンづくりに挑む大澤シェフ。世界に渡り合えるパン職人の登場は、パン好きをワクワクさせる。今後どんな活躍をみせてくれるのか、楽しみだ。

大澤 秀一氏

1986年群馬県生まれ。パン屋の息子としてパン屋を目指し、随所で修業。神戸の「サ・マーシュ」の西川功晃氏に薫陶を受け、パンの世界大会にチャレンジ。2019年第7回「モンディアル・デュ・パン」に日本代表として出場、総合優勝を果たす。2020年8月、東京・世田谷に「コム・ン」をオープン。世界一のパン職人の店として評判を呼んでいる。

Comme’N TOKYO(コム・ン トーキョー)

郵便番号
158-0083
住所
東京都世田谷区奥沢7丁目18−5 1F
最寄駅
大井町線九品仏駅
アクセス
大井町線九品仏駅から徒歩1分
電話
なし
営業時間
7:00~18:00
定休日
火・水曜

※店舗情報及び商品価格は取材時点(2021年2月)のものです

※店舗情報及び商品価格は取材時点(2021年2月)のものです

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