竹谷さんだから聞けるパン職人の理想と挑戦-対談vol.32 パンへの愛が会社員をパン職人へと導いた~特異な経歴が生んだ奇跡を辿る~
Boule Beurre Boulangerie(ぶーる・ぶーる・ぶらんじぇり) 草野 武さん

前編 後編

常に目の前にいる人のためにできることを







竹谷
 パンづくりへのこだわりはありますか?
草野
 あまり強いこだわりはもっていないのですが、修業時代に『ニコラ』の杉山洋春さんから言われた「今、自分の目の前にいる人のためを常に考えて何かを提案しなさい」という言葉は今でも大切にしています。お客様はもちろん、従業員や家族、近隣住民の方々など、とにかく自分が関わる全ての人に、自分が何をしてあげられるのかを考えていくことで、アイディアも色々出てくるのです。
竹谷
 いい言葉ですね。杉山洋春さんという方にとても興味が湧いてきました。
草野
 また、彼は近江商人の「三方良し」に当てはめて、「オーナー、従業員、お客様、その全てが幸せになれなければ、おいしいパンはつくれない」という言葉も教えてくれました。この教えも大切なことだと思い、実現できるよう、日々精進しています。
竹谷
 「おまかせパンセット」の販売をやっていらっしゃいますね。
草野
 2年前からはじめた取り組みで、その日に焼いたパンが売れ残りそうな時、SNSやブログで呼びかけ、お得なパンセットの配送販売を行っています。
竹谷
 なるべく閉店間際まで、商品を切らさずに焼き続けたいというポリシーもお持ちで、尚且つ「おまかせパンセット」でなるべくロスも減らしていく。とても立派な考えですね。
草野
 やはり商店である以上は、来ていただいた時に商品がないという状況は避けたいと思いました。しかし、パンを廃棄するのは心苦しいので、このシステムの導入を決めました。「おまかせセット」のパイオニアである『ポンレヴェック』さんにも伺い、素晴らしいシステムだなと改めて思いました。
竹谷
 『ポンレヴェック』さんがこの取り組みを始めたことをきっかけに、パン業界にもかなりいい効果がありましたね。まだまだ知らない人も多いので、もっと多くの人に知って欲しいですね。
竹谷
 ハード系のパンをメインにやられていますが、それはどうしてですか?
草野
 修業時代に勤めたベーカリーで販売されていたパンもハード系が多かったこともありますが、私自身がハード系のパンが一番好きというのが一番の理由ですね。お店では7割近くがハード系です。できればリスティックやロデウ、バケッドなどの一番シンプルなもののおいしさを伝えていきたいと思っています。
竹谷
 ハード系の売れ行きは好調ですか?
草野
 好調ですね。リスティックに関しては、5本ほどまとめ買いしていただくお客様もいらっしゃいますね。八王子はフランスパンが日本に伝来した1960年代に、日本で一番順調に消費されていた土地のひとつだったそうです。そのため年配の人もフランスパンの味や食感に馴染みがあり、抵抗なく受け入れられているのかなと思っています。

八王子という土地から発信する「パン文化」





竹谷
 駅からお店まで歩いてみて、八王子はとてもいい街だなと感じました。そんな素敵な街にあり、地域の方との繋がりも大切にされているように感じましたが、具体的にはどのような活動をされていますか?
草野
 1つめは「八王子パンの会」という団体でベーカリー同士の情報交換を行っています。年に2回ほど勉強会を開催し、今年は八王子の小麦畑に窯を持っていってパンを焼くというイベントも開催しました。2つ目は「ワインの会」です。こちらは地域住民の方との集まりで、イベントの時には、当店のテラスでワインを提供しています。パンマルシェを同時開催することもありますね。
竹谷
 地域との繋がりだけでなく、「青山パン祭り」や「世田谷パン祭り」にも参加されていますね。
草野
 「青山パン祭り」については青山ファーマーズマーケットの一部として開催されるイベントなので、さまざまな食材との出会いもあり、刺激になります。また規模の大きい「世田谷パン祭り」は、やはり繋がりが広がります。従業員も積極的に関わって、いい刺激になればいいと思い参加しています。
竹谷
 では、これからどんなパンを提供していきたいと思っていますか?
草野
 やはりカフェスペースで、食事とパンを提供するスタイルを確立させていきたいですね。以前は、料理人に入ってもらい食事も充実したスペースだったのですが、ベーカリーと動線が混同してなかなか上手くいきませんでした。
竹谷
 私のお店でも今年の9月からカフェスペースをオープンしましたが、大変ですよね。大切なのは、提供するパンのレベルに合った食事を提供するというバランスだと思います。
草野
 本当にそう思います。やはりカフェスペースが上手くいっているお店に伺うと食事とパンのバランスがとれていて、パンの楽しみ方をしっかり体験できると感じました。これからの課題ですね。
竹谷
 私もカフェをオープンしてみて、改めて実感したのですが、カフェを利用するお客様とパンを買いに来るお客様は、客層が違いますね。そしてカフェを利用した方は、パンを買って帰ってくれるという相乗効果が期待できるなと思いました。草野さんのお店も、カフェスペースを充実できたら、今よりもさらにいい空間になるでしょうね。
草野
 「ワインの会」でも食事のなかでのパンの役割などを提案しているので、そんな活動も続けながら、方法を模索していきたいですね。また、地元の飲食店の方との繋がりも増えてきたので、地域全体を盛り上げて行けたらとも思っています。
竹谷
 パン食やパン文化を広める活動も多くされているんですね。今後の発展に期待しています!本日はありがとうございました。
草野
 こちらこそ、ありがとうございました。
プロフィール

【草野 武さんプロフィール】
大学卒業後、広告会社に就職。12年間勤めた後、パン職人を志し退職。社会人製パン学校に2年間通いつつ、西馬込のベーカリーや多摩地区の天然酵母ベーカリーにて修業を積み、2006年に『Boule Beurre Boulangerie(ぶーる・ぶーる・ぶらんじぇり)』を開業。2014年に現在の場所に移転。

対談場所

営業時間:10:00~19:00 定休日:月曜・火曜

JR八王子駅北口から歩いて13分ほどで、みずき通り商店街に到着します。その商店街の中でもひと際目を惹くのが『 Boule Beurre Boulangerie(ぶーる・ぶーる・ぶらんじぇり)』。2014年11月に旧店舗の向かい側へと移転。モンマルトルの丘の下、飾らないパリの素顔のような街並みに建つお店をイメージしたという鮮やかな赤と青の外観が印象的です。遊び心が詰まった店内には、12席のイートインスペースを新設。「リスティック」(250円)や「フリュイ」(290円)などハード系のパンが人気です。

前編 後編

対談を終えて

草野武さん

竹谷先生とは同じオーブンを使っている、という縁もあり何度もお話させていただいており、大変感謝しているのですが、科学的にものすごい高度な技術論から「パン屋あるある」のような身近な楽しい話までが怒濤のように繰り出され、そのたびに新しい「発見」「気づき」を与えてくださいます。
膨大な知識と考えを持ちながらも今でも常に悩み考え、研究している先生の姿には自分もまだまだやらねばならない、といつも思います。
今回もひとつ、地球地質学の分野のお話を聞いたので自分の引き出しにしっかり入れてあります。

竹谷さん 以前から伺いたいと思っていた八王子の「ぶーる・ぶーる・ぶらんじぇり」草野氏のお店を今回初めて訪問しました。さすがに元広告会社デザイン担当、外観・内装共にこれまでのベーカリーにはない雰囲気を出しています。
12年間も続けたデザインの仕事をたまたま訪ねた、カリフォルニア・砂漠の村の小さなパン屋さんの味と香りに感激しこの道に飛び込んだとのこと。4年間の修業と専門学校を経て2006年に36歳で独立。5.5坪のお店を翌年には10坪、2014年には現在の40坪のお店に拡張しています。
ハード系が7割前後、確かに魅力的なパンがお手頃な価格で並んでいます。従業員にも恵まれ、これからは地域の仲間と八王子の小麦畑や農家レストランを中心にした地域の活性化とフードロスを無くす運動に注力したい、と明確な夢を話していただきました。

※店舗情報及び商品価格は掲載時点(2017年11月)のものです

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