竹谷さんだから聞けるパン職人の理想と挑戦-対談 幅広い視野が生む新発想~パンも効率もお客様も大事にしたい ポン レヴェック 大山 伸さん

前編 後編

パンを無駄にしたくない!「お任せセット」誕生への想い





竹谷
 やはり大山さんの功績を語る上で、忘れてはならないのが「お任せセット」でしょう。まだご存じない方もいると思うので、誕生の経緯から「お任せセット」について教えて下さい。
大山
 おそらくどのベーカリーでも「閉店間際に来店されるお客様にもなるべく多くのパンを届けたい」という想いがあると思います。当店も17時近くまでパンを焼き続けます。そのため必ず処分しなくてはならないパンが出てしまうのです。せっかくつくったパンを捨てなくてはならないのは、ベーカリーにとって一番の悩み、ストレスなのです。
竹谷
 本当にそうですね。このストレスを抱えていないベーカリーオーナーはいないと思います。
大山
 そこで考えたのが「お任せセット」です。これはその日売れ残ったパンを箱いっぱいに詰めて冷凍便で配送するというシステムです。100サイズ(3辺合計100cm)の箱にだいたい50個ほどの商品を詰め、送料、消費税、代引き手数料込み3,760円でお送りします(北海道、沖縄、一部離島は送料+1,500円)。はじめは注文があるのか、どこまで受け入れられるのかたくさんの懸念がありましたが、思い切ってスタートしてみると意外なほどに注文がありました。今では注文を開始するとわずか2分で完売してしまうほど好評いただいています。
竹谷
 2分には驚きました。始めるには、本当にさまざまな懸念や苦労があったと思います。しかし「悩んでいては前に進めない」と一歩踏み出した決断力に感服します。
大山
 「パンを捨てたくない」という想いからスタートした「お任せセット」ですが、今は遠方に住んでいてなかなかお店に来られない人にもパンを届けられるので、全国の人に当店を知ってもらえる、いいきっかけになっているとも思います。

パネオトラッドはなくてはならない相棒









竹谷
 もうひとつ「ポン レヴェック」と言えば108円で購入できる「バゲット」ですね。はじめからこの108円という価格だったのでしょうか?。
大山
 蟹江町学戸に移転し、2年ほど経った頃、夏限定のサービスとして「バゲット108円」をはじめました。行列をつくりたいと思っていたんですが、残念ながらそこまでの人気にはなりませんでした。しかし、元の価格240円に戻すと、お客様が減ってしまいました。これは充分来店動機に繋がっていると思い、思い切って通年108円で販売することに決めました。今年で108円にしてから2年になると思います。
竹谷
 それが可能になったのは、分割成形機「パネオトラッド」の導入が大きなポイントですか?
大山
 正直、展示会で初めて「パネオトラッド」を見た時、興味はそそられましたが、高価な機械なので導入は厳しいと思っていました。そんな時、地産地消推進のために制定した農林水産省の個人店向け補助金制度があることを知り申請したところ通りました。この補助金のおかげで導入することができ、今のスタイルに辿り付けたので本当にありがたいですね。
竹谷
 なかなか使いこなすのは難しい機械だと思いますが、「パネオトラッド」の特性を活かし、本当に上手に活用されていると思います。実際、バゲットをいただきましたが、本当においしいですね。
大山
 ありがとうございます。閉店ギリギリ17時過ぎまでバゲットを焼き続けますが、職人の負担にならないのも「パネオトラッド」の利点ですね。カフェでも提案しているように当店のバゲットは、煮込み料理と良く合います。お客様にもバゲットの楽しみ方も知っていただけるように包装紙には食べ方を書いてお渡ししています。

先駆者が伝える!これからのベーカリーに必要なこと









竹谷
 大山さんが考え出した「お任せセット」や「108円バゲット」は、これからベーカリー経営を考え始める若い世代にとってもいい雛形になっていくと思います。ただこのシステムを確立させる上で、いいことばかりではなかったと思います。これから始める人に向けて何かアドバイスはありますか?
大山
「お任せセット」からお話すると、一番大切なのは「正直であること」です。お客様に「お任せセット」がどういうものであるか、しっかりとご理解いただいた上で注文いただくことで、通常の通信販売では許されないであろうことも許容していただけます。
竹谷
 そこは大山さんの「お任せセット」の注文ページに書かれているポリシーの部分によく現れていると思います。大山さんのパンをひとつでも無駄にしたくないという正直な想いが本当によく表現されていて、感動しました。
大山
 そこまで言っていただけたのは初めてなので嬉しいですね。あとは、とにかく購入してくれたお客様に「この価格でこんなにたくさん」と喜んでもらうため、箱にはできるだけパンを詰め込みます。作業をするスタッフにも「隙間は厳禁」と指導していますね。実際の梱包作業は毎日手がかかり大変ですが、丁寧に気を配ってくれています。
竹谷
 「108円バゲット」を可能にしたパネオトラッド導入については何かアドバイスはありますか?
大山
 将来的に「パネオトラッド」は、今ベーカリーの必需品とされているミキサーなどと同様にベーカリーに欠かせない機械になってくるのではないかと思っています。それほど導入利点が多い機械です。たったの40分で冷蔵庫の生地がパンになるのだからとても画期的です。こまめに焼き立てが提供でき、チャンスロスが減らせます。唯一欠点を挙げるとすれば「大量につくれすぎてしまう」ことでしょう。
竹谷
 その欠点はどのようにカバーしましたか?
大山
 蟹江町に移転した理由にもなっているんですが、パンを買いたくなるような店づくりから考えました。店に入るとフランスのボンガード社の大きなオーブンが置いてあり、お客様はパンが焼ける様子、パンが焼けるいい香りを楽しみながら買い物ができます。炉端焼きのような雰囲気を演出することで、購入意欲をかき立てられるようにしました。
竹谷
 入った瞬間にオーブンが目に飛び込んできて、とても楽しい気分にさせてくれる素敵なお店だと思いました。大山さんの演出が表れていますね。
色々お聞かせいただきましたが最後に、これからのパン業界の発展のために必要なことはなんだとお考えでしょうか?
大山
 これから独立してベーカリーを開業したいと思っている人へアドバイスを送るとすれば、修業期間に製パン技術だけでなく、自分がどんな店を持ちたいか、スペシャリテはなににするか、しっかりとコンセプトを考えることだと思います。本物のコンセプトをしっかりと持って独立すれば必ず成功できると思うのです。成功するベーカリーが増えれば、自ずとパン業界も盛り上がっていくのではないかと思います。
竹谷
 パネオトラッドを利用した効率的なパンづくりや、「お任せセット」などパン業界の今後の一端を担うであろう画期的な方法の生みの親である大山さんのお話を伺えたこと大変感謝しています。本日はありがとうございました。
プロフィール

【大山 伸さんプロフィール】
1959年生まれ。愛知県出身。「名鉄グランドホテル」の洋菓子部門で5年間、「名鉄ニューグランドホテル」ベーカリー部門で5年間の修業。1992年に独立し、近鉄富吉駅前にベーカリーをオープン。2010年に現在の蟹江町に「ポン レヴェック」として移転。現在に至る。

対談場所

営業時間:8:00~18:00(カフェは8:00~10:30、11:00~14:00) 定休日:水曜
http://pont-leveque.jp (公式HP)

愛知県蟹江町にある人気ベーカリー「ポン レヴェック」。お店に入ると、大きなオーブンを囲むようにズラリとパンが並び、あたりにはパンの焼けるいい香りが漂います。人気は1本108円で購入できる「バゲット」や、「明太バゲット」(324円)。多い日には1日に400本近く焼くことも。カフェスペースも併設され、ランチにはパンのいい香りともに看板メニュー「ポーク・シチュー」などのル・クルーゼの鍋でじっくりと仕込んだココット料理が楽しめます。料理と共に提供されるパンはバケットだけでなくレーズンパンやソフトなパンなど多種類提供されます。

前編 後編

対談を終えて

大山 伸さん

今まで、経験や実戦で確立してきた製法をお話すると、科学的な裏付けや解説をお伝えいただけて、やってきたことの再確認ができたこと、とても楽しかったです。
パン屋の経営や今後のこと、誰もが問題としているスタッフのこと、リテイルベーカリーにかかわることすべてに深い興味と洞察、今後への心配をお持ちで、今後も業界にとって、大事な指針を導いて下さると思います。
今回は当店にご興味をお持ちいただき、遠いところ足を運んでいただき、心より感謝いたしております。ありがとうございました。

竹谷さん 今回、以前よりお会いしてお話を伺いたいと切望していた、大山氏との対談が実現出来ました。想像していた通り、いやそれ以上のお人柄と研究心、発想の豊かさ、行動力に感服いたしました。①ベーカリーにとって製パン、料理は誰にでも出来るもの、誰もが出来るようにしておかなければいけない。②マスコミが関心を持たないようなお店にお客様が関心を持つわけがない。一部にマスコミに取り上げられることに躊躇するお店もある中、特徴のあるお店を日々探している彼らの動きも上手く吸収。③美味しいパン屋さんがどこにでもある現在、コンセプトのはっきりした、平均から突き出た部分のあるお店でなければ今後生き残っていくのは難しい。
全くその通りで、普段ぼんやり考えていたことを、はっきり言葉にし、目の前で展開されていることに感動いたしました。

※店舗情報及び商品価格は掲載時点(2018年9月)のものです

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