竹谷さんだから聞けるパン職人の理想と挑戦-対談 「街のパン屋」であり続けたい~新天地・故郷の熊本へ向けて~
TENDREMENT(タンドルマン) 渡辺 裕之さん

結果ではなく過程が肝心。コンテストへの挑戦を経て









竹谷
 いろいろな経験をお持ちの渡辺さんですが、お世話になった方はどんな方ですか?
渡辺
 本当にいろいろな方にお世話になりましたが、成功のきっかけをくれた方としては『岩田屋』に勤めていた時に「カルフォルニアレーズンコンテスト」への出場を薦めてくれた上司でしょうか。初めて出場した時は、大賞を逃してしまいとても悔しかったことを覚えています。来年こそは必ず大賞を獲ろうと、努力をし続け2002年にレーズン大賞を受賞しました。
竹谷
 2002年、2003年と大賞を受賞され、鉄人という称号も獲得されていますね。渡辺さんにとってこのようなコンテストへ挑戦することはどのような意味がありますか?
渡辺
 結果はもちろん大切ですが、挑戦すること、そして挑戦するために努力することに意味があるものだと思っています。今までで一番勉強になったのは、2012年ドイツのミュンヘンで開催された国際製パン・製菓機材総合見本市「第3回iba カップ」の日本代表として出場したことです。すでに『タンドルマン』はオープンしていたので、昼は店のパンをつくり、夜は知識を得るために勉強したり、テストをしたり。合同のトレーニングにも参加するなど、とにかく不眠不休でしたね。
竹谷
 その経験が現在の渡辺さんの底力を生んでいるんですね。
渡辺
 そういったコンテストなどに参加するなかで、『ドンク』の仁瓶利夫さんや、『ベッカライ・ブロートハイム』の明石克彦さんなど、パン業界を代表する人を紹介いただきました。
竹谷
 そういった方々からはどんなことを学べましたか?
渡辺
 講習会に参加すると、私はかなり突っ込んだ質問をすることが多いのですが、そういう場合でも昔の職人さんのように「見て覚えろ」などと言うことは一切なく、とても丁寧に一から説明してくれます。そういう心意気は私たちも見習って、継承していくべきだなと思いますね。
竹谷
 従業員教育という部分ではどのようなことを大切にされていますか?
渡辺
 私が歩んできた道のりをしっかりと伝えていきたいですね。特によく従業員に言っているのは10年先の大きな目標を立てて、それに向かってクリアすべき小さな目標を1年や2年という短いスパンでも立てていきなさいと教えています。常に目標を持たないとダメだということですね。
竹谷
 業界の離職率の高さなども問題になっていますね。
渡辺
 初めの頃は当店も離職率は高かったのですが、こういったスタッフ自身で考えさせるという教育方針に切り替えてからは、離職率も低くすることができました。
竹谷
 若い人が育たないと業界が衰退してしまいますからね…渡辺さんのお力にも期待しています!

新天地・熊本へ。街のパン屋であり続けるために







竹谷
 現在、アイテム数はどのくらいありますか?
渡辺
 90アイテムほどでしょうか。生地数は中種などを含めると30種類ありますね。
竹谷
 商品開発はどのように行っていますか?
渡辺
 シェフやパティシエといったパン職人の方々以外との交流も多いので、そういった業界の人との関わりのなかで、いろいろとアイディアをいただいています。料理人の友人とレストランへ食事に行くと、完成された料理を崩して、分解しながら食べたりもしていますよ。
竹谷
 やはりパン職人以外の方との関わりも大切ですね。パンづくりのなかでこだわっていることはありますか?
渡辺
 こだわりは特にありませんが、街のパン屋さんであり続けたいと思います。ブランド化や付加価値は付けずに、買いやすい値段で提供していきたいです。それがパン屋さんの本来の姿だと思うんです。
竹谷
 熊本への移転をお考えだと伺いました。
渡辺
 ここ福岡での営業は2016年12月いっぱいで終了し、2017年3月に熊本に移転します。私も妻も熊本出身で、両親や親戚も熊本にいます。そのため、やはり故郷へ戻ろうと思いました。駅近くの土地が見つかったので、今は熊本と福岡を行き来しながら、移転準備を進めています。
竹谷
 今から楽しみですね。どのようなパン屋さんにしていきたいと思っていますか?
渡辺
 新店では、パンの楽しみ方を提案できるお店にしたいと思っています。ただパンを売るだけでなく、チーズやワインなども販売しながら「ライ麦パン」や「バゲット」などの食べ方も提案できるお店にしていきたいと思います。
竹谷
 最初に勤められたレストランでの経験が活きてきますね!駅も近いようなので、ブランチや軽食の提供も楽しそうですね。
渡辺
 まずは基本であるパンづくりから初めて、飲食スペースは2~3年後くらいに始められたらと思っています。

プロフィール

【渡辺 裕之さんプロフィール】
熊本県出身。18歳でレストランに2年間就職。その後、大手製パン工場『松石』に3年間勤め、『岩田屋』のベーカリー部門にて8年間さまざまな部署を経験。2002年に「カルフォルニアレーズンコンテスト」にて大賞を受賞。2012年「第3回iba カップ」では日本代表を務める。

対談場所

営業時間:8:00~17:00 定休日:不定休

福岡市地下鉄七隈線の金山駅から徒歩2分ほどに位置する『タンドルマン』は、2004年創業以来、地元の人だけでなく全国からもお客様が訪れる人気店です。「優しく」という曲調を表す言葉を冠した店名の通り、愛情たっぷりでつくり上げるパンが店内にズラリと並んでいます。2002年「カルフォルニアレーズンコンテスト」大賞受賞のレーズンパンをはじめ、味噌レーズンパンなどが人気。他にも、ハード系や惣菜系など90種ほどのアイテムが揃います。

前編 後編

対談を終えて

竹谷先生と出会ったのは10年前くらいでしょうか。以前より著書である「製パン基礎知識」は擦り切れるほど熟読し二冊目になります。竹谷先生のお店「つむぎ」訪問時でも温かく迎えて下さり、勉学になる話を頂戴致しました。度重なる出会いの中でもとても印象に残る雑学の中からの勉学、ヒントを得て自分の中でレクチャーしながらパンづくりに励んでおります。これからも、その心得を忘れず、美味しいパンづくりに没頭したいと思ってます。遠方よりの取材、誠に有難うございました。

竹谷さん 久し振りの訪問である。古くからの知り合いではあるが、その経歴を聞く機会は意外と少なく、今回はじっくりとお話をお聴きすることができた。これまでの印象はとにかくオシャレ、以前、お店に寄ってくれた時も、独特の眼鏡と真っ赤なスニーカー、スポーティーな服装が印象に残っている。その時に伺ったのは「パン屋さんはオシャレでなければいけない。」
そんな渡辺氏のスタートはレストラン、その後パン屋の個人店、大型老舗を経て福岡・岩田屋・ベーカリー部門に籍を置き、ここでは、商品開発担当、バイヤー、70名のベーカリー部門の責任者、組合の書記長など貴重な経験と数字管理というデパートならではの知識を吸収する。同時に、この間、カリフォルニアレーズンコンテストに応募し2回目にして大賞、翌年には鉄人の称号も獲得し、2度のアメリカ視察旅行を経験、この時にパン業界での人脈を一挙に広げられたとのこと。その後、今のお店を開店、地域1番店にすると同時に、コック、パティシエとの人脈も広げる。現在は専門学校の講師、海外ベーカリーの顧問なども務め、後輩、途上国の指導にも力を入れている。印象に残っているのはIBAカップ代表選手に選ばれた時、もの凄い忙しさの中でも穏やかな語り口と練習に裏打ちされた自信のようなものが感じられた。来年にはご夫婦の故郷でもある熊本にお店を移し、自分の考える理想のパン屋、来やすい、買いやすい、食べやすい、パン食文化の発信源を実現したいとのこと。益々のご活躍をお祈りしたい。

※店舗情報及び商品価格は掲載時点(2016年11月)のものです

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