竹谷さんだから聞けるパン職人の理想と挑戦-対談 熊本地震という大きな壁を乗り越えて~仲間の支えと南阿蘇への想いとともに~
めるころ パン工房 原田 雅之さん

南阿蘇という地での20年。家族経営の温かさも魅力に











竹谷
 開業20周年という節目の年に、熊本地震という大きな災害に遭われ、人との繋がりなど改めて実感されたと思います。そんな原田さんが「めるころパン工房」をオープンされた経緯などをお伺いできますか?
原田
 私は14年間、熊本市内の大手スーパーのベーカリー部門に勤務していました。勤め始めて12年くらい経った頃、独立を考える人が多くなりました。本部で営業企画にいた私の経験から独立の開業準備を手伝うようになりました。
竹谷
 全部でどのくらの独立開業をお手伝いされたんですか?
原田
 洋菓子店なども含めると2年間で16~17店舗ほどでしょうか。そういった独立開業の手伝いをしていくうちに、自分のお店を持つことに興味をもち1996年に「めるころパン工房」をオープンしました。
竹谷
 南阿蘇という立地を選ばれたのはなぜですか?
原田
 独立開業の手伝いのなかで最後に携わったのが、ふるさとにパン屋を開きたいという友人の案件でした。その友人のふるさとは、観光地でもなく、近くにあるのはJAのスーパーのみという玄海という地。私もはじめは「こんなところで大丈夫なのか?」という思いがありました。しかし、実際にオープンしてみると色々なところからお客様がやってきて、あっという間に売り切れたんです。年配の人も多い地域だったので、近隣の人からもとても喜ばれていたのがとても印象的でしたね。
竹谷
 そんな経験から南阿蘇という土地でのオープンに至ったんですね。
原田
 街中の競合店が多いなかで営業していくよりも、田舎で自分のつくりたいパンを提供していた方がお客様は来てくれるのではないかと思ったんです。
竹谷
 どんなパンを提供したいと考えて始めましたか?
原田
 天然酵母でつくる生地を食べてもらえるようなパンをつくりたいと思いました。当時、菓子パンなどはあまり提供していませんでしたね。南阿蘇は観光地だったこともあり、オープン後すぐに軌道に乗せることができました。
竹谷
 当時の思い出などはありますか?
原田
 オープン当初は、家族で経営していたので子どもたちが販売を手伝ってくれていました。「今日の売り上げがよかったら食事に行こうね」と約束して頑張っていました。そんなやりとりが楽しかったですね。
竹谷
 お子さんたちは現在どうされていらっしゃいますか?
原田
 長女が隣の洋菓子店を、長男はドイツでパン職人の修業中、次女はパン工房で販売を手伝っています。
竹谷
 家族でお店の経営ができるのはいいことですね。オープンから現在までに数回改装されていると伺いましたが、どのように改装されてきましたか?
原田
 最初は開業3年目に行いました。それから徐々に行っていき、合計9回ほど改装していますね。
竹谷
 カフェスペースがあり、ワインセラーもあり、洋菓子店も併設。かなり理想の店舗だと思いますが、これから増やして行きたいことはありますか?
原田
 もう少しサンドウィッチの売り上げを増やしていきたいですね。サンドウィッチの種類については、妻に任せっきりになっているので私も少し関わっていきたいです。またチーズ売り場などもつくれるといいなと考えています。
竹谷
 従業員教育という部分で大切にしていることはなんですか?
原田
 まず新入社員に教えることは「我慢」です。そして私たち指導する側も「諦めない」ことが大切だと思います。「この人はダメだ」と私たちが諦めてしまったら、そこで終わってしまいます。お互いが根気強く、仕事に向き合って行くことです。

震災を乗り越えた今だからこそ見える今後の展望




竹谷
 パン業界を代表する方々との交流もたくさんあるようですが、どのようなきっかけで知り合ったのでしょう?
原田
 10年ほど前に『ベッカライ ブロートハイム』の明石さんや『ボワドオル』の金林さんたちと一緒にドイツに行ったことがきっかけで、パン業界の方々との繋がりが広がりました。それから3年に一度ドイツで行われる『iba展(国際製パン・製菓機材総合見本市)』に一緒に行くようになり、交流は深まっていきました。
竹谷
 プライベートな集まりから交流が深まっていったんですね。このような方々とパンをつくれるのは楽しいでしょう。
原田
 楽しいですね。しかし、パンづくりという面では苦労の連続です。前の会社でも2年間しか製パン技術は学んでいなかったので、お店をオープンしてからも色々な講習会に参加するなど、日々勉強でした。
竹谷
 現在はパンづくりにどのようなこだわりをもっていますか?
原田
 最初はオーガニックな食材を集めて使用するというのもこだわりのひとつでしたが、今はとにかく生地にこだわることにしています。おいしい生地をつくることで、他店との差別化ができればいいと思っています。
竹谷
 これから挑戦したいこと、やっていきたいことはありますか?
原田
 熊本地震という災害を経て、やはり焼成冷凍パンの販売にチャレンジしたいという想いが一層強くなりましたね。南阿蘇店の売り上げだけでなく、もう1本経営の柱が必要です。無店舗販売、業務用販売という点も考えていきたいと思っています。
竹谷
 パン食やパン文化を広めるために今後どのような活動をしていきたいと思っていますか?
原田
 やはりパン屋さんはパンをたくさん食べることも仕事のひとつだと思います。例えば「ベルリーナ」というパンの食べ方をお客様に聞かれることがたくさんあります。そういう時にすっと食べ方をお教えできてこそ、パン食を広めることができると思います。交流のあるパン職人の方々も、泊まりがけで出かける時には、みんなでパンを持ち寄って食べることが多いので、見習わないといけないなと思います。
竹谷
 お子さんたちの成長はもちろん、お伺いした焼成冷凍パンの販売、チーズ売り場の設置、無店舗販売など、今後の展開にも期待しています。本日はありがとうございました。

プロフィール

【原田 雅之さんプロフィール】
1957年福岡県出身。14年間、熊本県内のスーパーでベーカリー部門勤務を経て、1996年に「めるころ パン工房」を開業。2013年には、熊本市郊外住宅地である光の森に教室を併設したお菓子とパンの食材道具専門店「LaTa」をオープン。さまざまな講座を開講中。

対談場所

営業時間:9:00~19:00(12月~2月は~18:00) 定休日:木曜・不定で連休あり

熊本県阿蘇郡南阿蘇村の325号線に位置する人気ベーカリー「めるころ パン工房」。レーズン種の自家製天然酵母を使用したパンを中心に、フランスパンやサンドウィッチなど約50~60種を販売しています。店内には、喫茶スペース20席も揃え、ドリンクとともに店内のパンはもちろん、ランチやケーキセットを味わうこともできます。また隣接するジャム&洋菓子店では、ミルクやフルーツのジャム30種を販売するほか、焼き菓子やケーキなどを提供。20年間地域の人だけでなく全国にもファンの多い名店です。

前編 後編

対談を終えて

竹谷先生との対談という、とても貴重な機会をいただけて感謝しています。今回は製造支援も兼ねて、対談日の前日からお越しいただきました。夜は自宅に宿泊いただき、夕食はバーベキューを開催。業者さんや家族と一緒に、普段はなかなか伺えないことまで、お話いただきとても楽しい時間を過ごせました。
夜遅くまでお酒にお付き合いいただいたにも関わらず、翌日は朝3時から仕込み、成形、焼き、全ての工程に参加していただきました。とても緊張したことを、今でも覚えております。
また、社員たちのためにミニ講習も行っていただき、本当にありがとうございました。ただ、社員たちも緊張していたのか、あまり質問ができず、もったいないことをしてしまったなと思っています。
当時はまだ開始前だった焼成冷凍パンの販売も、知識も豊富な竹谷先生から、設備面などアドバイスも大変勉強になりました。現在はバゲットの焼成冷凍パンの販売をスタート、徐々に広げていけたらと思っています。震災の影響でお客様の数が減少しているなかで、焼成冷凍パンという新たな挑戦への背中を押していただけたこと、とても感謝しております。このような機会を与えていただき、重ねてお礼申し上げます。ありがとうございました。

竹谷さん 以前から訪問したいと思っていた原田さんのお店「めるころ」、「Lata」店をやっと訪問できました。連絡を入れたのが3月、その後に熊本地震が4月14日にあり、一時は訪問を延期、中止にしようかとも思いましたが、地震から2日後には熊本市内の「Lata」店で営業再開。壊滅的な被害を受けた南阿蘇本店も片付け、改装、設備の入れ替えをして、ほぼ2か月後には営業再開を果たしました。この再開には全国、海外からもパン屋仲間が手伝いに駆けつけ、原田さんの人脈の深さ、広さを改めて知らされました。まだインフラの整っていない時点での再オープンは南阿蘇を一刻も早く再建したいという原田さんの強い想いに駆り立てられてのことでした。
この地震では未會有の被害を受けましたが、オープンしてからの20年間は順調に店舗の拡大を続けてこられました。2年目には改装、拡張に手を付けられ、その後も菓子部門、ジャム部門、喫茶部門、ワイン部門とジャンルを広げ、お客様にも楽しんでいただけるパン工房を実現し、これからもチーズ部門、無店舗販売部門の充実に力を入れていきたいとのこと。災害を乗り越え、人との繋がりを糧に、ますますの発展、充実をお祈りいたします。

※店舗情報及び商品価格は掲載時点(2016年11月)のものです

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