パン屋さんで活躍する女性たち パンとお店と“私”のストーリー

VOL.51 お客様との距離感を大切に。いろいろあってワクワクするようなお店にしたい。 ソライロベーカリー オーナーシェフ 北尾 智子さん

ソライロベーカリー オーナーシェフ 北尾 智子さん

奈良県奈良市郊外に広がる住宅地、左京6丁目のバス停のすぐそばにあるのが、「ソライロベーカリー」です。近くには平城1号緑地や公園があって、自然豊かな環境が広がっています。私が好きな水色をお店のテーマカラーにして、店名を「ソライロ」としました。お店では私がひとりでパンを焼いています。小さい子どもがいるので毎日の営業はちょっと難しくて、産休明けから週に3回の営業で再開しましたが、お客様は半年の間、待っていてくれました。

私は学生時代、実家を離れて福岡の大学で柔道に打ち込んでいました。柔道を引退したあと、ぽっかりと気持ちに穴があいて、何をしようか…と悩んでいました。大学で栄養士の資格を取っていたので、調理関係の仕事というだけで、あまり深く考えずに大阪の飲食店に入りました。調理の仕事を目指していたのですが、ホールの担当になったこともあって、そこを辞めてパン職人になることを決意しました。

昔からパンを食べることが大好きで、デパ地下やパン屋めぐりが趣味でした。「ものづくり」が仕事にできたらいいなと思っていたので、どうせなら好きなパンをつくりたいと一念発起。地元の奈良に戻って、大きなパン屋さんで10年修業し、他にも2軒ほど勉強させてもらいました。勤めているときに楽しかったのは、いろいろな開発にチャレンジさせてもらったこと。自分の考えたパンを商品化できた経験は、今とても役だっています。

パンへのこだわり

当店の看板メニューはベーグルです。ベーグルは店を始める前から私の好きなパン。丸い形がかわいいし、もっちりした食感が大好きなんです。私がこだわっているのは、パサパサしないベーグル。ちゃんと茹でてから焼き上げているので、もちふわの食感が楽しめます。ベーグルのバリエーションは、いつも頭の片隅で考えています。スーパーで買い物をしていても「あっ、これ合うかも…」と空想したり。おかず系のベーグルはなかなか難しいんですが、これからもいろいろなベーグルを創作していきたいですね。

私のもうひとつのこだわりは、ロデヴ。フランスパンとはまた違った食感が気に入って、つくるようになりました。外側は固そうに見えるけど、水分量が多く内層のもちもちした食感がロデヴの魅力。お客様には、まだあまり馴染みがないのか、売り上げが伸びないのが悩みですが、具材に工夫をこらしたり、サンドイッチにしたりと、食べ方の提案などもしていきたいと思っています。小麦の風味と香りがひきたつようなハード系パンにも力を入れています。
当店の自慢はパンの種類が多いこと。種類を減らせば、作業が楽になることはわかっているのですが、お客様に「今日はあれないの?」と聞かれると、とても申し訳ない気持ちになるんです。それにお店に入った瞬間のワクワク感を大事にしたいので、品揃えはなるべく多くするように頑張っています。

奈良市の郊外という、決して便利とはいえない場所ですが、わざわざ来てくださる価値のあるお店にしていきたいと思っています。インスタ(inatagram)で見て買いたいと言ってくださるお客様のために、少しですが通販もしています。東生駒にあるカフェで開かれるマルシェなど、催事にも積極的に参加しています。少しでもたくさんの方々に、私のパンを食べてもらいたいと思います。

ベーグルは種類の多さが自慢。お気に入りの味を探してみて いろいろな種類をつくりたいから、一度にたくさんはつくりません たくさんのパンが出迎えてくれるマルシェみたいなお店です 香ばしいハード系のパンもお気に入り

女性ならではの苦労

今はパン職人の世界も女性が増えたので、修業中に特に苦労したとは思っていません。柔道で鍛えたパワーがあるので、重いものも平気。ただ背が低いので、高いところに手が届かないのが大変でした。今でもオーブンの一番上を使うときは、私専用の踏み台として牛乳のケースを使っています。
今一番苦労しているのは、子育てとの両立です。店をオープンした時は独身で、結婚はしないだろうと思っていたのですが、友人のパーティーで主人と知り合い、あれよあれよという間に結婚・出産!
主人は看護師なんですが「私にとってはパンのことが何よりも一番大事」ということを、理解してくれるありがたい存在です。最初は店の手伝いもしてくれていたのですが、何かするたびに私が怒るので、この頃は子どもの世話を中心に家のことを手伝ってくれています。
ただ主人が夜勤の時は、前の晩から私が子どもを連れて実家に泊まり、早朝仕事に出ます。その後、母が保育園に連れて行ってくれるのですが、両親にはホントに感謝しています。

週3回の営業ですが、前の日から仕込みをしているので、完全に休めるのは日曜だけ。毎朝、1時45分に目覚ましをかけていますが、2時30分頃までゴロゴロしながら睡魔と戦っています。でも遅くとも3時には、お店に来て仕事を始めます。
出産で半年間も休んだので、復帰してお店を続けていけるのか、ずいぶん悩みましたが、子どもが1歳になったのを機に、再スタート。保育園に預けるようになってからは、子どもが風邪をもらってきて、それを私がもらってと…、出産前より身体が弱くなったような気がします。でも不思議なことに、膝痛が治ったんですよ。

離乳食を食べられるようになったので、私がつくった食パンの白い部分を子どもに食べさせています。小さな手でクチャクチャに握りながら、おいしそうに食べてくれます。子育てをしてみて「身体にいいもの」に意識が向くようになりました。これからはママ目線で、子どものためのパンもつくっていきたいと考えています。きっと自分にとってもプラスになると思うんです。子どもの1歳の誕生祝いに、普通は一升餅のところをパン屋らしく「一升ベーグル」を焼いて、お客様にも食べていただきました。

どんなお店にしていきたいですか?

2016年11月に開店したのですが「今しかない!」と、ドタバタでのスタートでした。知り合いが店を閉めるということで、居抜きで引き継いだんです。だから「どんな店にしていきたいか」と聞かれると、いつも困ってしまいます。始めのころは、お客様に「どうしたらいいですか」と、いろいろ聞きまくっていました。
お客様はご近所の方が多いですが、インスタを見て遠くから来てくださる方もいて、ありがたいなと思います。リンゴとくるみのロデヴなど、お客様のリクエストでつくったメニューも多いですね。
「お客様との距離感」をできるだけ近く、親しみを感じていただける店が理想です。それと、できるだけ素材は自家製でいきたいんです。出来ないものもありますが、カスタードクリームなどは自分でつくっています。

子どもができて変わったことといえば、滋賀県にパン職人をしているママ友が出来たこと。同じ立場でいろいろ情報交換できていいですね。自分が母親になってみて、抱っこひもをつけたまま、買い物をするのが大変だと知りました。そのせいか、赤ちゃんを連れたお客様だと、ついつい話しかけてしまいます。出産後は身体がしんどくて、仕事以外にやることが増えて大変です。でもお客様が「おいしい」と言ってくださることが、私のパワーの源です。

私もインスタで写真を公開していますが、他のパン屋さんのおいしそうなパンを見ては真似してみますが、そう簡単にできるものではありません。もっとパンづくりの技術を学んで、よりよいものをお届けしたいと思っています。週3日の営業にしたことで、講習会などにも行ける余裕ができたので、積極的に勉強したいですね。まだ子どもが小さいので無理ですが、パン屋めぐりは今でも大好き。いつか子供と一緒に行けるといいなと思います。

この店を開くとき、それまで修業していた店のオーナーが、厨房や店内の配置を考えてくれたんです。私はそんなこと、ほとんど考えていなかったので助かりました。なかなか出来ることではないですよね。心の広い人だなと、人間として憧れます。現在、昼間だけ販売のパートさんを2人お願いしていますが、何かにつけてすごく助けられています。常連さんの中には「この前のあれ、おいしかったわ」とか、「最近、来られなくてごめんね」と声をかけて応援してくださる方も。このお店を開いて一番よかったことは、まわりにいい人ばかりが、集まってくれるようになったことかもしれません。
パン職人としてまだまだ勉強不足ですし、子育てのことも不安はあります。けれど、お店のコンセプトも私なりの24時間の使い方も、やりながら決まっていくんだろうな、なるようにしかならない、と開き直って頑張っていこうと思います。

「お近くにお越しの際は是非お立ち寄り下さい!」

北尾 智子さん お気に入りのパン

あんバターのカスクード 210円(税別) あんバターのカスクード 210円(税別)
ルヴァン種を使用したロデヴ生地に、つぶあんと有塩の四つ葉バターをサンド。バターの塩味があんの甘みを引き立てます。そのままでもおいしいですが、軽くトーストするとバターが溶けてさらにおいしくなります。

抹茶ロデヴ 270円(税別) 抹茶ロデヴ 270円(税別)
水分を多く含んだ生地のロデヴに、抹茶を練り込みました。そこに甘酸っぱいクランベリーと、ホワイトチョコを混ぜ込んでいて、ちょっと酸味の利いた風味がクセになります。

フーガス 240円(税別) フーガス 240円(税別)
しょっぱい系のお酒のおつまみにもなるパン。フーガスは葉っぱのような形で、カリッとした歯ごたえが特徴のフランスのプロヴァンス地方の伝統的なパンです。当店ではフーガスの具材は日替わりですが、必ず何か野菜を入れるようにしています。今日はドライトマトと玉ねぎ、チーズ入り。

店舗情報

店名/ソライロベーカリー
(SORAIRO BAKERY)
郵便番号/〒631-0804
所在地/奈良県奈良市左京2-3-1 ローレルスクエア高の原5番館
最寄駅/近鉄奈良線・高の原駅
アクセス/高の原駅から、奈良交通バスで「左京6丁目」下車すぐ手
電話番号/0742-72-2110
営業時間/火曜・木曜・土曜の10:30~17:00(売切れ次第終了)
定休日/日曜・月曜・水曜・金曜

※店舗情報及び商品価格は取材時点(2019年10月)のものです

<オススメパン> パン・ド・ロデヴ290円(税別) かぼちゃと栗とクリームチーズベーグル230円(税別) バジルペーストとベーコンベーグル230円(税別) 

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