竹谷さんだから聞けるパン職人の理想と挑戦-対談 ひたむきに「食」を追求した44年間~人との出会いが成功への道しるべ~
Boulangerie K YOKOYAMA 横山 暁之介さん

前編 後編

現場で通用するパン職人になるためのひたむきな努力















竹谷
 大手ベーカリーに30歳で総料理長として招かれ、パンづくりへと進んで行くのはどのような経緯があったのでしょうか?
横山
 やはりベーカリー企業なので、何をやるにしてもパンとの組み合わせになります。パン職人に対して「こういうパンはつくれない?」などと注文を出しているうちに「自分でつくってみたら?」という話が出てきました。最初は料理とパンづくりはやはり全くの別物なので、お断りしていましたが条件を付けてパンづくりに携わることを承諾したのです。
竹谷
 どのような条件を出したのですか?
横山
 とにかく現場で通用するようにパン職人の勉強をさせて欲しいとお願いしました。そうでないと、現場の若い社員たちがついてくるはずがないと思ったのです。夜はパンづくりの勉強、昼は自分の仕事という生活を5~6年ほど続けました。
竹谷
 パンづくりを始めてみてどんなことを感じましたか?
横山
 パンづくりを始めると、20代で経験した料理の経験が大変役に立ちましたね。河岸などに自ら足を運んでいたことで、食材の本質を見極める能力は身についていることも、パンづくりを始めて実感できました。
竹谷
 現在は『Boulangerie K YOKOYAMA』を経営されていて、レストランではなく、パン職人の道へと進まれていますね。料理人ではなくこの道を選んだ理由を教えて下さい。
横山
 自分のなかでパンの技術者という意識はあまりありません。しかし「食」という分野のなかで「パン」は一番難しいものだと思います。パンづくりはトレーニングしなければ絶対においしく焼き上げることはできません。そんなパンづくりの奥深さにハマっていきましたね。また、料理人でありパンもつくれる人は少ないこともパンづくりへとのめり込ませた理由のひとつです。
竹谷
 現在の場所への出店を決めたのはどうしてですか?
横山
 50歳での独立だったので、とにかく3年間でカタチにしなくてはと思っていました。そのため出店場所へのこだわりは特にありません。ただし日商で50万円が見込める立地を探しましたね。宣伝は一切せずに、口コミのみでここまでやってきました。しっかりとした技術があれば、お客様はついてきてくれると信じています。
竹谷
 『Boulangerie K YOKOYAMA』では、従業員教育はどのように行っていますか?
横山
 販売からスタートして全7つのポジション(仕込み、成形、焼成、折込、フィリング、サンドイッチ、販売)をマスターするのに6年ほどかかるでしょうか。特徴的な教育方針としては、パン職人としてはもちろんですが、企業の一社員としてのマナーをしっかりと教えていくことを大切にしています。また勤務形態も過度な労働環境にならないよう気をつけていますね。「人財」という言葉がありますが、本当に宝です。お店にとっては人が一番大切です。そんな宝を雑に扱っていい訳がないのです。
竹谷
 立派な方針だと思います。そうでなくては経営者自身も、スタッフも長く続けていくことはできないですよね。お店に伺った時に、アイテム数の多さにも驚きましたが、現在は何種類ほどあるのでしょうか?
横山
 常時160種類以上を揃えていますね。パンに組み合わせるソーセージ、具材、ジャムまで全て店の厨房で手づくりしていますよ。
竹谷
 スペイン式(日本製)の石窯を有効に使っていらっしゃいますね?使いこなしている職人さんは横山さんだけではないでしょうか。
横山
 蓄熱がいいので、食パンを焼くには最適ですね。最初の頃はフランスパンを焼いてもガサガサになってしまったり、火傷してしまったり、何をやっても上手くいきませんでした。今では食パンを焼くにはなくてはならない存在となっていますね。
竹谷
 あの美しい焼き色はスペイン式の石窯の蓄熱から生まれているんですね。味も抜群においしかったです。
横山
 ありがとうございます。本当に怪我の功名ですね。

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竹谷
 コンテストなどに挑戦されている社員さんもたくさんいらっしゃいますよね。参加は奨励されているのですか?
横山
 コンテストは通過点として考えています。賞をとってもそれは相対的なものなので、一概に善し悪しは判断できません。しかし、教育の一環としては、最小の費用で最大の効果が得られるのがコンテストだと思います。また、参加する本人にとってもコンテスト参加者との出会い、現場での刺激は大変価値のあるものだと思っています。お店で働いているだけでは決して得られない経験ですよね。
竹谷
 人材教育にも熱心で、労働環境もしっかりと整えられているのは素晴らしいですね。
横山
 実は『Boulangerie K YOKOYAMA』にはコンサルタントビジネスというもう一つの大きな柱があります。ある程度経験のある社員たちはどんどんコンサルタント業務に携わってもらい、海外ビジネス、セミナーの講師なども経験してもらいます。
竹谷
 なるほど、あれだけの商品開発が可能な理由はそのような他店にはなかなかないコンサルタント業の経験も活かされているからこそなんですね。
横山
 新商品開発に関して言えば、特別にやらないことも重要だと思っています。普段から常に新しいものを考えていくクセをつけているんです。つくったアイテムでいいものはすぐに現場である『Boulangerie K YOKOYAMA』でお客様の反応を見られるので、やりがいもあると思っています。
竹谷
 私は、ベーカリーを経営してみて日本のパン業界の裾野の狭さを感じています。
横山
 私もそう思います。今、日本のパン職人の技術は世界の人々も認めるレベルになっていると思います。しかし、パンを「食」としていかに結びつけていくかという部分が非常に弱いとも思います。
竹谷
 どのような提案を行っていけばいいと思いますか?
横山
 自分が食べたいと思うパンであること、日本人の食習慣に合うパンであることはもちろんですが、主食としてのパンを自然に、おいしく食べていただけるような提案の仕方がいいのでしょう。44年間「食」に携わってきて、よりパンを気軽に楽しむための料理を考える「ラボ」をつくれたらと思っています。
竹谷
 「ラボ」の完成楽しみにしております。本日はありがとうございました。
プロフィール

【横山 暁之介さんプロフィール】
1972年からフランス料理の修業を開始し、5年後ビストロのシェフを経験。その後ベーカリー企業に務め、フレンチシェフとしての経験を活かし、海外でも経験を積む。2004年に埼玉県川口市に『Boulangerie K YOKOYAMA』を開業し、今に至る。「第15回カリフォルニアレーズンコンテスト」で鉄人の称号を獲得、「第1回シュト―レンコンテスト」で個人部門最優秀賞 (レシピプロデュース)など数々の受賞歴も持つ。

対談場所

営業時間:7:00~19:00 定休日:無休

JR南浦和駅東口から徒歩15分ほど歩くと『Boulangerie K YOKOYAMA』があります。2004年オープン以来、100年続くお店を目指し「子どもから大人まで安心して召し上がれる、健康でおいしいパン」を提供しています。店内に入ると、フレンチシェフとして腕を振るった経歴も持つオーナー横山暁之介氏がつくり出すパンがズラリと出迎えます。その数は常時160種類以上。スペイン式の石窯で焼かれた食パンや、3種の生地からつくるフランスパン、懐かしい味わいの菓子パンなど、全てのアイテムにオーナーシェフのこだわりが光ります。

前編 後編

対談を終えて

パンを通した食の世界は、とても興味深く奥の深いものだと思います。40年以上前のパンは、高級レストランでも週に何度か配達されたパンをお客様に提供しているのみで、現在の品質とは格段の差がありました。それでも、当時の日本人はそれがあたりまえだと思っていたのです。私は偶然、食の仕事に就き、とても恵まれた人間関係や経験、そして、子ども達にも十分な教育を受けさせることができました。なぜ、何もない私がそんなことができたのかと振り返ってみると、その中心はパンなのです。主食のパンがあり、それをより豊かに楽しめる食の世界を提案してきたことで現在の私があるのです。日々の仕事では、さまざまな問題があると思いますが、それはこの仕事だけではありません。基本的には世界中どこに行っても通じる私の仕事だと私は考えています。

竹谷さん 久し振りにゆっくりと横山氏のお話しをお聴きして、これからのリテイルベーカリーの目指すべき道の1つを教えていただいた。昔はいかに製パン技術を極めるかに精力を傾けたが、業界のレベルが上がり製パン知識に加え、和菓子、洋菓子の知識も必要になった。でもこれからはリテイルベーカリーの収益向上、他店との差別化のためには調理技術の習得も必要になる。パンは生鮮4品とも言われ、食生活に欠かせない地位を獲得したが、それだけでは生産性、付加価値に疑問がある。農業の6次産業化と言われるように我々リテイルベーカリーも1次、2次に、3次産業を加え6次産業化を目指すべきではないのか。横山氏はフレンチのシェフを経験してこの業界に入り、精力的に現場を経験しながら製パン技術を習得され、製パン技術にフレンチ、ハム・ソーセージの知識を融合した新業態を示唆してくれている。益々ご活躍いただき、今後も我々に指針を示し続けていただきたい。

※店舗情報及び商品価格は掲載時点(2017年1月)のものです

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