竹谷さんだから聞けるパン職人の理想と挑戦-対談 直向きに、真摯にパンと向き合い続ける~伝説のベーカリー(パン職人)と呼ばれる由縁~たま木亭 玉木 潤さん

前編 後編

スペシャリテから自信作まで。たま木亭のパンのおいしさに感動!











玉木
 今日はせっかくお越しいただいたので、当店のパンを召し上がっていただきたく、いくつかおすすめのパンを用意いたしました。
竹谷
 玉木さんの味覚も尊敬しているので、おすすめのパンをいただけるのは嬉しいですね。
玉木
 まずは当店のスペシャリテ「クニャーネ」を食べてみてください。とにかく他にはない繊細な食感が特徴です。個人的には「ガラスのような食感」と表現しています。 詳細は企業秘密なのですが、パイ生地ではなく発酵生地を使用して作っているんです。生地の食感を最大限に楽しんでもらえるよう、カスタードもオーダーを受けてから絞っています。
竹谷
 発酵生地を使用した菓子パンで、ここまでパリンと砕けるような食感に仕上げているのには驚きました。とてもおいしいですね。
玉木
 次は角切りベーコン、じゃがいも、ガーリックバターを包み込んだ「パンシュー」とバターをたっぷり使用したフランスパン「硬焼きバター」をお持ちしました。
竹谷
 バターをこんなにも惜しみなく使用しているパンは、他にはないと思います。以前厨房を拝見した時に、鉄板にバターが溶け出しているところを見かけて、思わずもったいないとさえ思ってしまったほどです。実際に食べてみると、噛んだ瞬間にバターがジュワッと溢れ出し、パン生地とともに口のなかで溶けていく感覚は最高ですね。
玉木
 おいしいパンをつくるためであれば、妥協は一切しません。だからこそおいしいと感じるレベルまで高級なバターであっても惜しみなく使っているんです。
竹谷
 そういったアイテムひとつひとつへの心がけが、日本一のベーカリーと呼ばれる由縁のひとつなのでしょうね。
玉木
 次は「マニトバ」と「バゲット」も食べてみてください。ぜひ味わって欲しかったパンです。
竹谷
 仁瓶さんから「玉木さんのつくるフランスパンの内相はピカイチだ」とお話しを伺っていたので、私もぜひ食べてみたいと思っていました。本当に艶がよく、食べる前から口溶けの良さがわかりますね。
玉木
 こういったシンプルな食事パンには、日清製粉の小麦粉を使用しています。なかでもよく使用するのが「ビリオン」です。その他の小麦粉も何種類も試しましたが、「ビリオン」に敵う小麦粉はなかったですね。
竹谷
 私が30代の頃に開発した小麦粉ですね。愛用していただいていると聞けて、とても嬉しいです。しかし、この小麦粉の良さを最大限に活かしているのは、やはり玉木さんの腕だと思います。この内相と艶、食感、口溶けを生んでいる最大のポイントはパシナージュ(加水法)でしょうか?
玉木
 パシナージュも行っていますが、それだけでなく他にも、発酵時間の長さとそれらのバランスも非常に大切です。
竹谷
 今も仕込みは全て一人で行っているのでしょうか?
玉木
 はい。もちろん焼きや成形も重要ですが、生地の仕込みでパンの出来は7割が決まると思っています。深夜1時~3時半頃までの2時間半で11袋の仕込みを終わらせます。普通のベーカリーの何倍もの量を仕込んでいますね。
竹谷
 厨房を拝見した際に大きなミキサーが三台もあったことからも、仕込み量の多さを感じました。しかし、その仕事ですらおいしいパンを召し上がっていただくためと、妥協せずに行う姿勢には感服いたします。

フレッシュなパンを届けたいからこそ守るべきもの







竹谷
 ご用意いただいたパンを食べてみて、本当にどれもおいしく感動しました。パンづくりはどのように行っているのでしょうか?
玉木
 まず、そのパンのテーマを決めてから、頭の中で完成した時の口溶けや、食感、甘さなどをイメージすることからスタートします。イメージが固まった後は、製法を固め、そこから実食しながら微調整を行っていくといった感じです。
竹谷
 もちろん長年の経験もあると思いますが、舌の感覚が優れていることでそのイメージにも人とは違った幅があり、豊かな発想の源となっているのでしょうね。
玉木
 自分自身の経験も大きいですが、やはり先人や先輩たちが私たちに伝承してくれた技術があってこその現代のパンづくりだと思っています。先人や先輩への敬意は忘れず、進化させていくことが大切だと思っています。
竹谷
 玉木さんがパンづくりにおいて一番大切にされていることはなんでしょうか?
玉木
 一番はやはり、フレッシュな状態、つまり焼きたてのパンをお客様の手に届けることだと思っています。来店いただいたお客様に、パン自体がもつ魅力を、最高のいい状態で伝えることが私の使命です。それを実現するためには、やはり素材選びから、生地の仕込み、焼き上がりまでの全ての工程にチェックを欠かさず、フレッシュな状態でつくり続けることが第一です。
竹谷
 そういったこだわりを守り抜くためにも、これからも一店舗主義を貫いていくのでしょうか?
玉木
 多店舗展開はもちろんですが、催事や卸しなども考えていません。その理由は、私のつくるパンは、私が生地を仕込み、管理しているからこそ完成すると思っているからです。ベーカリーとしては当たり前の精神だと考えています。
竹谷
 本当に真摯にパンと向き合い続けていることが、実際にパンを味わってみて、本当によくわかりました。本日は貴重なお話しを聞かせていただいた上、おいしいパンも用意いただき、本当にありがとうございました。これからも玉木さんがつくるおいしくフレッシュなパンを期待しています。



プロフィール

【玉木 潤さんプロフィール】
1968年生まれ。京都府出身。パン学校卒業後、「センチュリーホテル」で1年間勤務。「ムッシュf 製パン技術訓練塾」に通い、「ドンク」に就職。9年間の修業を経て2001年に独立し京都府宇治市に「たま木亭」をオープン。2015年には新店舗に移転。現在に至る。

対談場所

営業時間:7:00~18:45 定休日:月・火・水曜

京都市宇治市にある人気ベーカリー「たま木亭」。多い日には800人もの人が訪れ、連日行列の絶えない人気ベーカリーです。列に並びながら、アイテムがズラリと並ぶ棚から、好みのパンを見つける時間は、最高のひと時。数種類の発酵種を使い調和のとれた重層的な風味とほどよい弾力を生み出した「ロデヴ」(370円)や、噛む度に深い味わいが広がる「バゲット」(270円)、表面にカンパーニュの生地を貼り、パリパリに仕上げた「たま木亭クロワッサン」(180円)など、ここでしか出会えない至高のパンが揃っています。

前編 後編

対談を終えて

玉木 潤さん

ゆっくりとパン談義ができて楽しい時間になりました。
パンを食べ、語る竹谷さんのひと言ひと言が明日へのパンづくりのヒントになりました。
驚いたのは、たま木亭のメイン粉である「ビリオン」が竹谷さん自身の開発だと知った事でした。今のたま木亭でこの粉は欠かせません。

竹谷さん 新店へは初めての訪問である。玉木さんらしい外観・内装に納得しながら、2階の休憩室へ、対談前に玉木さんが用意してくれた、フランスパン、リュスティック、マニトバ、クロワッサン、加えて、途中で差し入れられたベーコンハース。とにかくどれも美味しいのはもちろんだが、内相・クラムの艶が信じられないくらいにみごと。高たんぱく小麦に極限まで吸水を入れ窯で思い切り伸ばしているのが良くわかる。高たんぱく小麦のグルテンをここまで出すと粗熱がとれると強い引きを感じるはずだがそれが無い。加えて、通常なら口の中でパンが団子になるはずが、全くそんな気配もない。ある人が食感の魔術師と言っていたがこの事かと、あらためて納得させられた。さらに驚いたのは店頭のお知らせ「働き方改革推進の為、毎週、月、火、水を定休日とさせていただきます。」平日で120万円以上の店を3連休にするとは、玉木さんでなければできない英断と改めて驚かされました。

※店舗情報及び商品価格は掲載時点(2019年2月)のものです

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